2人のみこ






「ど、どういう意味?確かにあの曲は神々にささげる曲だけど、それがどうしてあなたたちがここに来た理由になるの?」


シンジの言葉の意味がわからなかったアイリスが、いぶかしげに問う。
シンジはミュウの頬から手を離し、言った。


「あの曲は神に捧げる曲ではない。神を呼び出すための曲だ」
「え!?」
「で、でも、アイリスとか、他の島でも吹かれてる曲なんだろ?でも、伝説のポケモンが来たのは今回が初めてなんだろ?神に捧げる曲って思われてるくらいだし・・・」
「あの曲は神に選ばれた本当の神子であるサトシが吹くからこそ意味がある。人間が勝手に仕立て上げた巫女が弾いても何の意味も持たない」


巫女や神子の本分とは、神を降ろすこと。
しかし、近年神を降ろすことは困難を窮する。
それはひとえに、欲に走る人間が増大し、神の力を利用できる人間が増え、友人として接することのできる人間が、いなくなったからに他ならない。
巫女が神を降ろせた時代など、とうの昔に終わりをつげている。
自分たちの願いが、祈りが神の心に少しでも届けばいい。また昔のように戻ってほしいと思っているものも少なくはない。一方で年間の行事だからただ行っているだけだと思っているものも、決して少なくはないのだ。

シンジは、ピカチュウたちと戯れるサトシを見つめた。
シンジの隣にいたミュウは、いつの間にかサトシたちの輪に戻り、その姿を次々と変え、サトシたちを楽しませている。
それを微笑ましげに見つめるシンジを見て、デントたちは顔を見合わせた。

やばい、やばいよ、これ。
僕ら、めっちゃサトシのこと馬鹿にしてたじゃん。めっちゃサトシのこと見下してたじゃん。
暴言に暴挙のオンパレードだよ、どうすんの。
あの人サトシのライバルとか言ってたじゃん、ライバル馬鹿にしてたのばれたら袋だたきもいいとこだよ。
ついでに言えば、サトシの友人様たちからもいっせい攻撃喰らいそうだよ、マジどうしよう。


「そういえば・・・」


ふとつぶやかれた言葉に、ベルたちの肩が大きく跳ねる。シンジの言葉に耳を傾けようとして、シンジの方を見て、後悔した。
振り向いたシンジの顔は、本当に御子なのかと問いたくなるほどに、ニヒルな笑みを浮かべていた。


「お前たちの行いはセレビィとディアルガにより、すべての神に知れ渡っている。まぁ、精々気をつけるんだな」


あ、これ、詰んだわ。






















(これだけ、釘をさしておけば、あいつを馬鹿にすることもなくなるだろうな・・・)


シンジたちはサトシの演奏によって呼び出されたが、別にそれを強制されているわけではない。別に、ここに来ないという選択肢もあったのだ。
特に今回は、自分たちを呼び出すためではなく、ただの演奏として吹いたのだ。つまりあの『神降ろしの曲』は正式なものではなかったということ。ここに来る必要などは何もなかったのである。
しかし今回シンジたちがここに来たのは、ひとえにサトシに元気がなかったからである。
自分の考えを受け入れてもらえなくて辛いと、珍しく弱音を吐かれ、ひどく驚いたのを覚えている。
こんな脅しまがいな方法では、何の解決にもならないことはわかっているが、自分と対をなす存在が、少しでも安らかであれるようにと願いを込めて、サトシの呼び出しの応じたのだ。
結果、憂いの晴れた笑顔が見れて、安心したのは自分の方だったが、自分の片割れが心の底から笑っているのを見て、ここに来てよかったと、シンジは心から思うのだった。




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