そんなのは建前で
「(何だ、このバトルは・・・!)」
トキワシティのポケモンセンターのロビー。
紫陽花色の装いの少女――名をシンジという――は自身のポケモンの回復を待つ間、イッシュ地方にて行われるリーグ戦の中継を見ていた。
イッシュリーグはバトル数が他の地方よりも少ないため、本選はすべて放映される。
現在は4回戦。逆立った髪にバンダナの少年と黒髪にキャップを被った少年のバトルがスクリーンに映し出されている。
珍しいイッシュのポケモンたちが戦っているのを見て、この場にいるトレーナーたちは興奮しているのか落ち着きがない。
さすがリーグ戦、レベルが高い、などの称賛の声が飛び交っている。
それと同時に逆の意見を言うものも同じくらいいて、レベルが低いのではないかというものもいる。
まったくもってその通りだと、シンジは思った。
単調な動きに生易しい指示。全力を出しているとは思えない、ただ楽しんでいるようなバトル。
血が沸き立つようなバトルを望むトレーナーには、どこか物足りなさを感じる。
『ピカチュウ、エレキボール!』
『ルカリオ、波動弾!』
画面では、2人のポケモンの技がぶつかり合う。
2つの技がぶつかり合い、火花が散る。
そしてついに、拮抗していたバランスが崩れ、エレキボールは波動弾に粉砕された。
波動弾をよけることもできずに食らったピカチュウに、戦闘不能の判断が下された。
勝利したのは、バンダナの少年だった。
「あいつ、負けやがった・・・」
思わず口から洩れたつぶやきは、常よりも低く、重い。それでいて力強い。
怒りをにじませた声だった。
「はい、あなたのポケモンはみんな元気になりましたよ」
「ありがとうございます」
預けていたポケモンたちを受け取り、シンジはナースの女性――ジョーイさん――に頭を下げる。
白衣の天使は優しげな笑みを浮かべてどういたしまして、といった。
シンジはすぐにポケモンセンターを飛びだした。
回復させたばかりのポケモンを外に出す。
ボールから出されたポケモン、ドンカラスは闇色の翼をたたみ、シンジを見上げた。
「マサラタウンに向かう、いけるか」
「ア゛ァー!!!」
もちろんだ、とでもいうように翼を大きく広げ、一声鳴く。
シンジが背に乗りやすいように足を折り曲げ、ドンカラスは背を向けた。
シンジはその背にひらりと飛び乗ると、いつでもいいぞと軽く背を叩いた。
その感触にしっかりとうなずき、ドンカラスは翼を大きく動かし、空へと舞った。