大食漢






 ここはカロス地方。美食の街として有名なカロス地方有数の都市にて、サトシ達は食事を取っていた。
 落ち着いた雰囲気を醸し出しながらも、家族連れの客が多く、レストランは穏やかなにぎわいを見せていた。
 そんな中で、サトシ一行と現在彼らと連れ添って旅をしているシンジは一緒にテーブルを囲んでいた。しかし食事を取っているのはシンジの実で、サトシ達はすでに食事を終えているらしかった。
 テーブルには次々に食事が運ばれているが、それに手をつけているのはシンジ一人。――そう、彼は尋常ではない大食漢なのだ。そしてサトシ達はその食いっぷりが微笑ましくて彼に旅の同行を頼みこんだのだ。一人食事をするシンジを、それはもう微笑ましく眺めている。
 しかし一人黙々と料理を食べているシンジは、居心地が悪そうに眉を寄せていた。それに気づいたサトシが、こてんと首をかしげた。


「どうしたんだ、シンジ?」
「……何か、一人で食べている気分だ」


 それもそうだろう。サトシ達はもう10分も前に食事を終わらせているのだ。それほどまでに彼らの食事量は違う。
 本人は自覚していないようだが、どこか寂しさをにじませた表情をするシンジを見て、サトシ達は慌てた。しかしながら、彼らはすでに満腹であった。
 ――どうしよう。サトシ達がお互いに顔を見合わせるが、誰からも答えは出なかった。
 と、その時。


「おかわり!」


 別の席から、威勢のいい声が聞こえてきた。そちらを見れば、そこにはシンジの前に並べられている皿と同じくらいの料理が並んでおり、サトシ一行は眼を剥いた。しかも席に座っているのは自分達と同い年くらいの少女である。
 その中でもサトシの驚きようは尋常ではなく、サトシは思わず立ち上がっていた。


「ハルカ!!?」
「え?」


 シンジとためを張れる大食漢の少女がサトシを振りかえる。そしてサトシと同じように立ちあがって目を剥いた。


「サトシ!? 何でここにいるの!?」
「それはこっちのセリフだよ! ジョウトを旅してるはずじゃ……」
「トライポカロンの噂を聞いて見に来たの。コンテストに生かせないかと思って」
「ああ、なるほどな」


 2人は知り合いのようで、懐かしそうに眼を細めて和気あいあいと会話を繰り広げている。ユリーカがサトシの上着の裾を引くと、サトシは笑って少女を呼んだ。


「こいつはハルカ。前に一緒に旅をしていた仲間だよ」
「初めまして!」
「こちらこそ!」


 ハルカと呼ばれた少女と自己紹介をかわし、サトシ一行は笑い合う。ふと、サトシ達のテーブルに食事が乗っていることに気づくと、ハルカは眼を輝かせてサトシを見やった。


「サトシ達もここでご飯食べてたのね。私も一緒に食べていい?」
「もちろん」


 一人寂しく食事をしていたシンジのためにも、それは歓迎すべき事だった。
 サトシ達はハルカを手伝って食事を運び、また一同そろって席に着く。ハルカはシンジの隣に座った。
 ひとりで食事を取っていたハルカは、サトシ達と食事が出来るとわかって嬉しそうに笑っている。けれど、サトシ達が料理に手をつけないところを見て、不思議そうに首をかしげた。


「サトシ達は食べないの?」
「俺たちは終わってるんだ。あとは全部、シンジの分だよ」
「そうなの?」


 くるりと首を横に向け、ハルカがシンジを見やる。いきなり視線を向けられたシンジはわずかに肩を揺らし、一拍置いて控えめに頷いた。


「じゃあ一緒に食べよ!」
「あ、ああ……」


 嬉しそうに笑うものだから、シンジが思わずうなずく。


「これおいしいよ!」


 小さく一口サイズに切り分けられたミートパイの刺さったフォークを差し出され、シンジがパイとハルカを交互に見やる。それからためらいがちにパイにパクリと口に含んだ。
 それを見ながらハルカは「なんだか小さい頃のマサトを思い出すな―」と微笑ましく頬を緩ませていた。


「どう?」
「……悪くない」
「でしょー」


 こっちもおいしいよ―と言って次に差し出したのはサーモンのムニエルだ。それも口に合っていたようで、表情は変わらないが、どこか和やかな空気を醸し出している。
 どうやら2人の食の好みは似通っているらしい。


「お前も食べてみろ」
「ありがとう!」


 シンジが差し出したのはホウレンソウのキッシュだ。さくさくとしたタルト生地にハルカが顔をほころばせた。
 そんな風にしてお互いに自分の分の食事を食べながら、おいしいものに巡り合ってはお互いに食べさせあいながら食事を終えたのだった。
 そんな光景を見て、サトシ一行はテーブルに突っ伏した。


((((何だこいつらくっそ可愛い……!!!))))


 楽しい食事を終え、満足した2人はそんなサトシ達を不思議そうに見つめて首をかしげるのだった。






おまけ

「私、自分と同じくらいご飯食べる人初めて会ったかも!」
「俺もだ」
「誰かと一緒に食べるご飯っておいしいね!」
「大抵は相手が先に食べ終わってしまうからな」
「うん! だからシンジ、また今度一緒にご飯食べようね!」
「ああ」

「今度からゆっくり食べることを心がけよう」
「「「賛成」」」




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