2人のみこ
白く輝く美しいからだ。銀色に輝く翼。深い青のコントラストに目を奪われる。
悠々と空に浮くポケモンの名は海の神・ルギアだ。
「る、ルギア!?」
「う、海の神がどうしてここに・・・」
突然現れた神の姿に人々が慌てふためく。
その美しさに魅惚れるもの、手を合わせて涙するもの、まさに十人十色だ。
「久しぶりだな、ルギア。演奏を聴いてたのか?恥ずかしいなぁ・・・」
『恥ずかしがるようなことはない。とても素晴らしい演奏だった』
「ぴかっちゅ!」
「そうか?ありかとな」
まっすぐにサトシをほめるルギア。
それに対し、照れながら礼を言うサトシは、どう見ても気の置けない友人と話しているようにしか見えない。
しかし、今彼が話しているのは神と呼ばれしポケモンだ。
2人の会話を聞いていた者たちの顔から、血の気が引く。
「さ、サトシ!相手は神様よ!?そんな私たちに接するみたいに話しちゃだめよ!」
「そ、そうだよ、サトシ!せめて、敬語を使うとかしないと失礼だよ!」
アイリスたちの言葉に、サトシが首をかしげる。
そしてルギアに向き直り、尋ねた。
「敬語の方がいい?」
『話しやすい話し方でかまわない。我らは友人だろう?』
「それもそうだな!」
「ぴっかー!」
なになになに、ゆうじん!?ゆうじんって何だけ!?
アイリスたちの心境は、こんなものである。
「さ、サトシくん!その白いポケモンと友達ってホントなの?」
「ああ!なっ、ルギア!」
『ああ』
「ぴっかぴー!」
ベルの問いにサトシが嬉しそうに答える。
ルギアやピカチュウも同意したことにより、一同は絶句した。
しかし、そこで黙っていないものもいた。
「あ、ありえない!あんな子供が海の神の友人だなんて!」
「あの子供がルギア様に何かしたんだ!」
「そうだ!そうに決まってる!」
「あの子供からルギア様をお救いするんだ!」
大人たちは口々にそういい合い、モンスターボールを取り出した。
驚く間もなく、ポケモンたちが繰り出される。
そのポケモンたちが、主人の怒りのままに、サトシへと牙をむく。
『我らが友人に牙をむけるか』
ルギアがサトシたちの前に立ち、彼らをかばう。
ポケモンたちはその威圧に気圧されてしまい、すくみ上がっている。
それは人間たちも同じだ。
しかし、人間たちには人間たちの言い分があり、正義がある。人間たちは恐怖しながらも、気丈に立ち向かった。
「おどきください、ルギア様!」
「あなたはその子供に騙されているのですっ!」
『黙れ、誰を信じようと、私の自由だ』
神の威厳を前に、顔から血の気を引かせる。
あまりの怒気に、気を失ってしまいそうだ。
実際、口の端から泡が漏れている者もいた。
「おい」
凛とした声が響く。
少し低めの、中性的な声だ。
その声をたどるように振り向けば、そこには、シンオウに伝わる神々の姿。
そして、反転世界の王。
その王の背中に、1人の少女の姿があった。
「あまりそいつを馬鹿にしてくれるな。こいつらを止めるのは大変なんだ」
その少女は、まだ年齢がようやく2ケタに至ったころあいにしか見えないが、どこか威厳がある。
王の背中はまだ幼い少女には大きすぎるほどに大きいが、王や神に負けない存在感があった。
よく見れば、ラティアスにセレビィ。更にはこの世で最も珍しいとされる幻のポケモン、ミュウまでもがそこにはいた。
それも、まるで少女を守るように、彼女の周りで円を描いている。
『来たか、我が同胞。
――――我らが愛娘よ』