大食漢
「と、こんな感じだ」
そう締めくくり、シンジはクレープをぱくりと口に含んだ。
今日はミカンとクリームのクレープだ。
ミカンの酸味と控えめなクリームの甘さがおいしい。
頬を緩ませたシンジに、サトシ達も口元を緩ませた。
「シロナさん絶許(シロナさんって本当にアイスが好きだなー)」
「シロナさんうらやま(チャンピオンってやっぱり甘いものが好きなのね)」
「シロナさんそこ代われ(私もシロナさんに会いたいなー)」
「シンジマジ天使」
「「「それな」」」
「・・・?何だ?」
「「「「いいえ、何でも」」」」
盛大に本音と建前が逆になっていたが、クレープに夢中だったシンジは気付かなかったらしい。
首を傾げたシンジに、サトシ達は笑顔で首を振った。
「んむっ、」
クレープを握る手に力が入ってしまったのか、クリームがあふれてくる。
クリームで口元を汚してしまったシンジはまたか、と眉を寄せた。
どうも自分はクレープを食べるのが下手らしい。
「あああ、ちょっと待ってください。何か拭くものは・・・」
「俺タオル出すから待って」
「あ、私ハンカチ持ってるよ」
口元を汚してしまったシンジを見て、シトロンたちが拭くものを探す。
ハンカチもタオルも持っているのだが、とシンジは一人ごちた。
パシュン!
「!」
ボールからポケモンが出てくる音に、シンジが後ろを振り返る。
出てきたのはマニューラで、マニューラは嬉しそうに笑っていた。
「マニューラ・・・?」
「マニュ~!」
あのときと同じように、マニューラがシンジの膝に乗る。
きょとんと眼を瞬かせた次の瞬間、
ちゅう、
とマニューラがシンジの唇にキスを落とした。
「・・・は?」
「マッニュ~!」
驚いて固まっているシンジなど気にも留めずにマニューラがシンジの口元を嘗める。
我に返ったシンジが目を見開いたが、硬直までは取れない。
そのうちにくすぐったくなったのか、眉を寄せてくすぐったさに耐えるように目を伏せた。
「マニュー」
口のまわりについたクリームをなめ終わったマニューラがシンジに擦り寄る。
きゅう、と眉を寄せたシンジは、照れからか若干頬が赤く染まっていた。
「・・・食べたいのなら食べればいいと言っただろうが・・・」
「マニュー」
上機嫌なマニューラの額を指ではじき、シンジはふてくされながら残ったクレープにかぶりついた。
そんな様子をマニューラは楽しげに見つめているのだった。
「「「「天使か」」」」
「シンジもマニューラも可愛すぎ・・・!」
「ココが天国か・・・!」
「楽園はここにあった・・・!」
「天使のポケモンはポケモンも天使だった・・・!」
・・・なお、一連の様子を見ていたサトシ一行は、あの日のシロナと同じようにベンチに突っ伏することになったのだった。