大食漢
きゅるるるるるるる・・・
可愛らしいお腹の音を鳴らしたのは、つい最近大食漢だと判明したシンジだった。
餌付けしまくって一緒に旅をする(育て屋のお使いで来ているためそう長くは一緒にいられないが)約束を取り付けたサトシ達は、とにかくシンジのお腹のすく時間の把握に努めた。
ご飯を食べるシンジの愛らしさに癒されたいがために仲間に誘ったのだから当然である。
そうして把握したのはお腹がすく時間だけではなかった。
生粋の弟気質たるシンジは、どうやら甘え上手らしい。
言葉には出さないものの、お腹がすくと眉を寄せて拗ねた態度を取る。
(おそらくそうしていれば食べ物をもらえると学んできたのだろう)
お兄ちゃんのシトロンを始め、兄気質のサトシや姉気質のセレナの目には、そんなところもかわいらしく映った。
しかしあまりお腹をすかせた状態で放置しておくと今度はお腹を鳴らさないようにと必死にお腹を隠して我慢しだすのだ。
そんなところも彼らのつぼにはまってしまって、けれどもお腹をすかせたまま放置しておくのはかわいそうで、街に着くたびにみんな何かしらのお菓子など、間食に食べられそうなものを購入するようになったのだ。
規則正しくなるお腹は、現在午後3時ごろ。
丁度おやつ時だった。
いつもなら誰かがお菓子を持っているのだが、あいにくと今日はたった今街についたばかり。
お菓子は底を尽きてしまっていた。
きゅう、と寄せられた眉に、サトシ達は慌てた。
「お、お腹すきましたね!な、何か食べてから買い出しに行きましょうか!」
「そうだな!」
「あ、みてみてお兄ちゃん!クレープ屋さんがあるよ!」
「わぁ、おいしそう!」
ユリーカの指差した先には、移動式のクレープ屋が止まっていた。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
おやつ時はみんなお腹がすく時間。
甘い香りに食欲をそそられたサトシ達は、シンジに続いてお腹を鳴らした。
「あの店は・・・」
「あれ?シンジ、あの店を知ってるのか?」
「ああ。シンオウにもあるクレープ屋でアイスもうまい」
「そうなんだ!」
「各地のアイスを食べ歩いてるシロナさんのお墨付きだから、相当うまいんじゃないか?」
「「えっ!!?」」
ピンクの車体に見覚えのあったシンジは、懐かしそうに眼を細めて呟いた。
シンジの小さな声を拾ったサトシがシンジに尋ね、返ってきた言葉に、サトシだけでなくシトロンも驚いた。
「お兄ちゃん、シロナさんって人知ってるの?」
「シロナさんと言うのはシンオウ地方のチャンピオンだよ!」
「「えええええ!!?」」
シトロンの言葉に、今度はユリーカとセレナも驚いた。
「シンジ、そんなすごい人と知り合いなの?」
「シンオウを旅していたときに偶然知り合ってな」
「そうなんだぁ・・・」
ユリーカの疑問にシンジが答えれば、ユリーカは感嘆の声を漏らした。
「そう言えば、シロナさん、アイス好きだったもんな・・・」
「ああ。俺があの店に行った時も、シロナさんはどのアイスを食べるか迷ってたな」
「チャンピオンって甘いものが好きな人が多いのかしら・・・」
カロスチャンピオンのカルネもガトーショコラを食べたがっていたな、とセレナは空を仰いだ。
「ねぇねぇ、チャンピオンの人とどんなお話ししたの?一緒にアイス食べた?」
「あ、それ僕も聞きたいです!」
「俺も!」
「あ、私も!」
「面白い話はできないぞ・・・」
「「「「それでもいいから!!!」」」
4人の気迫に押され、少し引き気味になりながら、シンジは小さくうなずいた。