大食漢
カロスの森にて、偶然再会したサトシ一行とライバルのシンジは、成り行きで一緒に昼食を取ることとなった。
その成り行きというのは、森の中でそろそろ昼食にしようかと話しているところにシンジが現れ、そのままバトルにもつれ込もうとしたのだが、どうやら2人そろってお腹をすかせていたらしく、盛大に腹の虫を鳴らしたのだ。
バトルは朝食の後ということになり、せっかくだから一緒に食べようというシトロンの提案のもと、サトシ一行にシンジが加わる形で昼食を取ることになったのだが・・・。
「シンジ・・・そんなに食べれるのか・・・?」
テーブルの上にはサンドイッチとシチュー、スパゲティとサラダ、ベーグルサンドが並べられている。
サトシ一行が昼食として作ったのはサンドイッチだけで、後の残りはすべてシンジが作ったものだ。
呆然とした表情で見つめられ、シンジは首をかしげた。
「食べないのに作ったりはしないが?」
もっともな答えに、サトシ達は押し黙った。
それはつまり食べきれるという宣言でもあり、サトシ達を戦慄させた。
「食べないのか?」
「えっ?あ、そ、そうだな!食べようか!」
「そ、そうですね!いただきましょう!」
5人で「いただきます」と声を合わせ、それぞれが料理に手をつけた。
サトシ達はサンドイッチを、シンジはベーグルサンドをほおばった。
顔の半分ほどを隠してしまうような大きなベーグルサンドを両手で持ち、もくもくと頬張る姿は小さなポケモンのようだ。
一口は小さいが、食べるペースは意外に早い。
それでもって花が飛んでいるように見える。
顔はすまし顔なのに、幸せオーラ全開だ。
「ね、ねぇ・・・」
小ポケモンのような姿にキュンと来るものを感じたセレナが、どきどきしながらシンジに声をかける。
セレナの声に、シンジはベーグルを加えたまま、こてんと首をかしげた。
「(かっわ・・・っ!!!)」
サトシ一行は悶えた。
行動がもう、小ポケモンだった。
「あ、あのね?デザートにクッキーもあるんだけど、食べる?」
「!食べる」
表情は依然として変わらないが、目がキラキラと輝く。
甘いもの好きなんだ、とほんわりと温かい気持ちになる。
先程よりもたくさんの花が舞っている。
そんなシンジに和みながらの食事は、いつもよりおいしく感じられた。
こりこり、サクサク、
おいしそうにクッキーをほおばるシンジの前には、空っぽになった皿が積まれていた。
まさか残さず食べてしまうとは思わず、一行は眼をみはったが、シンジが幸せそうなので良しとする。
けれども彼らには、気になることがあった。
木に書けない様にしていたが、やはり気になるものは気になり、サトシが行動に移した。
「シンジ、ちょっと手、あげて」
「?」
シンジの背後にたち、膝をつく。
手を挙げたことで無防備になった腹周りに手を回した。
しかし腹が膨らんでいる様子はなく、むしろぺしゃんこで、疑問は募るばかりだ。
「(今食べた昼食はどこに入ってるんだ?)」
食べたものがどこに消えてしまったのか、とサトシが首をかしげれば、サトシの行動の意図が読み取れずにシンジは首をかしげるのだった。
とにもかくにも、食べ物をほおばるシンジの愛らしさに胸を打たれた一行が、シンジを餌付すべくお菓子を常備するようになるのだが、これはまた別のお話。