君の声が聞こえる






「エレキブル、守る!」


降り注ぐ電撃をはじくエレキブル。
プラスルたちはいまだに怒りをむき出しにしている。
しかし、解決が近いことをシンジは悟っていた。


「(声が消えた・・・。助けたのか・・・)」


ここにきてからずっと聞こえていた『助けて』の声が消えた。
おそらくサトシがマイナンを助けたのだろう。威嚇するプラスルたちの背後で、こちらに向かってくる影が見えた。


「マイー!」
「プラッ!?」


マイナンだ。
プラスルが驚いたように振り返る。
マイナンに抱きつかれ、プラスルはしばし呆然としていたが、戻ってきた友達を見て、目に涙を浮かべた。


「プラ~!」
「マイ~!」


しっぽをくっつけ電気を流し合う2匹を微笑ましげに眺めながら、サトシがシンジの元に駆け寄った。


「シンジ!」
「サトシ・・・」
「なんともないか?」
「ああ。お前は?」
「もちろん大丈夫だぜ!」


満面の笑みを浮かべるサトシに、シンジはそっと息を吐いた。


「無事だったのか・・・」
「よかった・・・」
「でも、一体どこに・・・」
「エレベータに閉じ込められていたんです」
「エレベータだって?」
「多分、停電が起こる前にエレベータの中にいたんだと思います」
「それでか・・・」


サトシの言葉に、職員たちは顔をしかめる。
そんな職員たちに、プラスルたちが申し訳なさそうに眉を下げ、近寄った。


「プラ~・・・」
「コイ・・・」


謝りに来たのだろう、気まずそうにうつむいている。
職員たちはふっと微笑んでいった。


「気にするな、プラスル、コイル。友達がいなくなったらみんなびっくりするさ」
「だからお合い子ってことで仲直りしよう」
「プラ~!」
「コイ~!」


プラスルたちが、嬉しそうに職員たちに擦り寄る。
職員たちも嬉しそうに頭をなでて抱きしめていた。


「よかったなぁ、みんな仲直りできて」
「そうだな」


嬉しそうなサトシをよそに、シンジの表情は険しいままだ。
そんなシンジに気付き、サトシがシンジの顔を心配そうにのぞきこんだ。


「どうしたんだ?」
「いや・・・一体何故停電が起きたのか気になってな」
「え?」
「あのプラスルたちがこの発電所で電気をもらうのが日課になっているのなら、彼らに電気を与えたせいで停電したのではないということだ。漏電にしたって、街一つ分の電気を失っていたら、その途中で職員のだれかが気付くだろう。何か原因があるはずだ・・・」


そう言って口元に手を当て、考え込むシンジ。
ポケモンの声を聞けるようになってからというのも、シンジはサトシ並みに無茶をするようになっていた。そんなシンジを見て、サトシはジbんがどれだけ周りに心配をかけていたかがわかったが、彼は無茶を止めるつもりはない。そんな彼にシンジに無茶をするなという資格はなく、サトシは眉を下げた。
それから、思考を巡らせるシンジに、サトシは努めて明るく言った。


「マイナンが無事見つかったんだし、それでいいじゃないか!」
「・・・お前な」


呆れたようにシンジがため息をつく。
けれども、プラスル太刀が仲直りできたことを喜び、ピカチュウとじゃれついているのを見て、若干ほだされかける。
それではいけないと首を振ったその時だった。見慣れたゴム製のアームがピカチュウたちの胴をつかんだのは。


「ぴかっ!?」
「プラッ!?」
「マイッ!?」

「ピカチュウ!!」
「プラスル!マイナン!」
「一体何なんだ!」


職員たちから悲鳴が上がる。
サトシがアームの先にあるデンリュウ型のロボットを睨みつけた。
しかし、シンジとピカチュウはと言えば、もういい加減あきらめろよ、とあきれ顔である。
サトシのようにいつまでも純粋な反応を返すほど、純真でいるつもりはない。
お決まりの「何なんだ!」の声を聞き、ロケット団が高らかに言った。


「一体何なんだ!と聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」
「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実と悪を貫く」
「ラブリーチャーミーな敵役」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「銀河をかけるロケット団の2人には」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」
「ニャーんてニャ!」


控除プをドヤ顔で披露するロケット団に、職員の人たちが困惑したような様子を見せた。
堂々と名乗る悪役など初めて見たからであろう。


「ロケット団!ピカチュウを返せ!」
「やーなこった!返せと言われて返す奴はいないんだよ!」


もっともだ、と思いながら、シンジがエレキブルに指示を出す。


「エレキブル、雷だ!」
「レッキー!」


すさまじい雷がデンリュウ型のメカを襲う。
しかし、ライはデンリュウの体に吸収された。


「ざーんねんでした!」
「今回も電撃対策はばっちりなのだ!」


お前らもう科学者にでもなれよ。
そこいらの科学者では手も足も出ないような高度なメカを作り出す彼らを見て、シンジはつくづくそう思う。
トレーナーとしてもレベルも、決して低くはない。
いくらでも道はあるだろうに。
そんなことを思っていると、ニャースが高らかに言った。


「それに加えて今回のメカは省エネなのにゃ!今吸収した電気は・・・」


そう言ってボタンを押す。すると、デンリュウの額に電気が集約する。


「お返しにゃー!」


集約された電気がシンジを襲う。迫りくる電撃を見て、大人たちが悲鳴を上げた。


「うわああああああああああ!!!」
「危ない!!!」


しかし、電撃はシンジには当たらず、地面に電撃が落ちる。
もうもうと上がる土煙が収まり、ジュカインに抱きかかえられ、エレキブルの”守る”で守られているシンジが姿を現した。


「ジュール・・・」
「ジュカイン・・・」


肩とひざ裏を抱えられた状態のシンジが、自分を助けたジュカインを見上げた。
おそらく、サトシがとっさに自分を守るために出したのであろう。


「(別によけられたんだが・・・)・・・礼を言う」
「ジュイ」
「レッキ!」


ジュカインを見、そしてエレキブルを見て言った。
ジュカインはうなずき、エレキブルは嬉しそうに鳴いた。


「シンジ!大丈夫か!?」
「ああ・・・」


地面に下ろされたシンジにサトシが駆け寄る。
サトシの心配する声に返事を返し、シンジがロケット団を睨みつけた。


「この町の停電の原因はお前たちだな・・・?」
「原因だなんて人聞きの悪い!ちょっと電気をもらっただけじゃないか!」
「それは立派な犯罪だぞ!」
「ふん!だから何だっていうのよ!ニャース!さっさと逃げるわよ!」
「わかってるにゃー!」


ムサシの言葉にニャースがボタンを押す。
また、デンリュウの額に電気が集約された。


「いつもしびれさせられたお返しにゃー!」


電撃が襲いかかる。先ほどよりも、威力が高い。


「うわあああああ!!!」
「エレキブル!職員の人たちを守れ!」
「ジュカインもだ!」


サトシとシンジは電撃をよけながらデンリュウ型のメカに向かって走る。
ロケット団はデンリュウの手についた檻の中にピカチュウたちを入れ、メカを発進させた。


「「「帰る!!!」」」
「待て!ロケット団!」
「追うぞ!」
「おう!!」


デンリュウは森の中へと逃げ込む。サトシたちはそれを追って走り出した。
キャタピラによって蹴散らされた木の枝が飛んでくる。それをよけながら走るため、なかなか前に進めない。
そのうちに、ジュカインたちが追いついてきた。


「ちっ・・・!ドンカラス!燕返しで檻を壊せ!」


繰り出されたドンカラスは、すでに燕返しのモーションに入っていた。
輝く翼がおりをかすめる。
すると、檻は見事に切り裂かれ、ピカチュウたちが地面に着地する。


「ジュカインはタイヤにリーフブレード!」
「うわわわわわわ!?」
「ああ!ピカチュウたちが!!」


キャタピラが壊され、メカが傾く。こうなってしまってはメカは動くこともできない。


「ニャース!何とかしなさいよ!」
「待つのにゃ!今何とか・・・」


バキッ


「「「あ゛」」」


ハンドルが派手な音をたてて壊れる。
ばちばちといやは音を立てる機会に、ニャースたちの顔が青くなる。


「ふん、いつものパターンに持ち込まれたな。エレキブル、雷パンチ!」
「ピカチュウ!ボルテッカー!」


2匹のポケモンの大技に、デンリュウメカが爆発した。


「「「やなかんじー!!!」」」


そう叫んで、ロケット団は星々の瞬きの中に消えた。


「(よくあれで生きていられるな)」


そんなことを思いながら、シンジはロケット団を見送る。
そんな風に思いながらも、容赦なく吹き飛ばすのだから、シンジも大概鬼畜である。




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