初恋フィルター
五条悟の初恋の女の子こと、清庭椿と遊びに行く機会はすぐに訪れた。椿の方から連絡があったのである。
その日は予定が入っておらず、特にすることもなかった硝子はすぐに了承の返事を返した。丁度、夏服が欲しかったところだ。
ちなみに悟や傑も誘っていいかと尋ねられたが、同性だけで過ごしたかったのでそれについては断った。何せ高専は男性比率が高過ぎるので。
別に彼等のことが嫌いなわけではない。ただ、同性だけで過ごしたい、女の子だけで楽しみたい。硝子だって年頃の少女なのだ。
「あれ、何だかご機嫌だね。良いことでもあった?」
硝子に声を掛けたのは傑だった。感情を表に出しているつもりはなかったが、どうやら顔に出ていたらしい。傑が不思議そうに、けれどどこか嬉しそうにしている。
「友達から連絡があったんだよ。今度出掛けることになった」
「もしかして、清庭さん?」
「そう」
良いだろ、とニヤリと笑ってみせると、傑は「楽しんできてね」と笑う。その奥で、悟が目を見開いて固まっていた。
「えっ、な、何で硝子だけ!? 俺らは!!?」
「まぁ、異性より同性の方が遊びに誘いやすいからね。それに、悟はまず名前を呼べるようにならないと」
「うぐ………」
「お前の代わりに楽しんできてやるよ」
けらけらと笑いながら携帯を仕舞うと、悟が頭を抱えて呻き声を上げる。毎日名前を呼ぶ練習をしているようだが、なかなかうまくいっていないようだった。
そんなに難しいかね、と硝子は疑問に思うが、好きな人が相手となると難しいのだろう。これで自分が椿を恋愛対象として見ていることに気付いたら、一体どうなってしまうのやら。もっと酷くなるのだろうか。
(ま、そのときになってから考えればいいか)
遊びに行く当日は何を着ていこうか。硝子はクローゼットの中を思い浮かべながら小さく笑った。