初恋フィルター 番外編






学生時代。


夏油「悟、少しは落ち着きな。そわそわし過ぎて完全に不審者だよ」
家入「ただでさえ夜なのにサングラスっていう怪しさ満点の格好してるのにな」
五条「うっせぇ! いいだろ、別に! 目が疲れて仕方ねぇんだから!」
夏油「便利だけど大変だよね、六眼って」
五条「それな」
家入「ま、便利なだけのものはねぇってことだろ」
夏油「だね。しかし、人が多くなってきたな」
家入「ここの花火、結構有名だからね。その分、見物客も多いんだろ」
五条「うへぇ〜、こんな人混み、歩くのも一苦労じゃん。清庭さんに誘われてなかったら速攻帰ってたわ」
夏油「情緒を楽しむ心とか無いのか、悟は」
家入「五条にそんなもん期待しても無駄だろ。…………おっ?」
椿「すまない、遅れてしまって。待たせただろうか?」
夏油「いや、まだ集合時間前だから大丈夫だよ。ところで、素敵な浴衣だね」
椿「ありがとう」
家入「いいね。髪上げるのも似合ってんじゃん」
椿「ふふ、似合ってるならよかった」
五条「……………おぁ……」
夏油「悟の語彙が溶けてる」
家入「むしろ人間の言語忘れてない?」
椿「五条くん?」
五条「い、いや、あの、その、えっと………に、似合ってます……」
椿「ありがとう、五条くん。嬉しいよ」
五条「ひぇ………」

家入「花火大会で気になるあの子が浴衣で現れたーなんて、どこまで少女漫画踏襲してんだ五条は」
夏油「夏のイベントと言ったら海とか山かな」
家入「夏休み終わったら文化祭もあんぞ」
夏油「体育祭もね」
家入「他なんだ? クリスマスのイルミネーション?」
夏油「バレンタインもあるよね。清庭さんなら用意してくれそう」
家入「ホワイトデーは五条が意味とか知らずにやべぇ贈り物しそう」
夏油「分かる。やらかしそうだよね」
「「いやぁ、楽しみだなぁ」」
夏油「………とりあえず今日はテンプレ踏襲して、はぐれたふりして二人きりにしてみる?」
家入「ヘタレの五条が浴衣姿の椿とまともに話せるわけねぇだろ」
夏油「それもそっか。慣れてきた頃にやってみよう」
家入「全力で楽しんでんじゃねぇよ。決行するときは私も呼べ」
夏油「君も大概だよ」


***


五条「何その顔、かわいい〜! でも、それ最早浮気じゃない???」
椿「浮気の判定が厳しすぎる」
五条「だって、狡いじゃん! そんなかわいい顔は僕だけに向けるべきだよね!?」
椿「どんな顔かすら分からないんだが? というか、君しか知らない顔なんて、いくらでもあるだろうに」
五条「そりゃそうなんだろうけど! 僕、独占欲強いの! そんだけでも妬いちゃうの!!!」
椿「なるほど。でも、愛想が悪いと余計な諍いを生む可能性がある。多少は我慢してほしい」
五条「うぅぅぅ、頑張るぅ……」


***


学生時代。

五条「清庭さんに近付く男を全員殺せる権利が欲しい」
家入「とんでもねぇこと言い出したな、おい」
夏油「一旦落ち着こうか、悟」
五条「俺はこの上なく落ち着いてるが???」
家入「で、何があってそんな発想に至った?」
五条「特に何も」
家入「こいつやべぇな」


***


何か事件が起こったとき。

椿「何で夏油が居ないんだ」
五条「いやぁ、居なくて良かったと思うよ?」
椿「何故?」
五条「僕がはしゃいじゃう」
椿「ああ、なるほど」


***


椿「私、呪術界からの評価って散々なんだよな」
家入「どういう風に散々なの? 非術師うんぬん?」
椿「いや、純情な美青年を誑かす毒婦、恥知らずの淫売、泥棒猫、その他諸々って感じかな」
家入「うっわ………。五条を純情な美青年って見る目ねぇな」
椿「反応するのはそっちで正しいのか?」


***


椿「君、相当疲れてるな。私のところに来る暇があるなら、少しは休んだらどうだ?」
五条「…………椿の顔見てると癒されるから、大丈夫」


***


椿「私の愛が消えたとき、この命も消えますように」


***


五条「椿ってめちゃくちゃ面白いんだよね〜。僕と傑のこと、『甘噛みしあってじゃれついてる犬みたいだ』って!」
釘崎「それを言えるのは呪術界どころか日本中で椿さんだけでしょうね」


***


椿「君はいくら歳を重ねても、美しく鮮烈で、軽薄なままなんだろうな」


***


椿「君の目はとても綺麗だから、君の目を通して見つめる世界は、きっととても美しいのだろうな」
五条「それはこっちの台詞なんだよな~~~!!!」


***


学生時代。

椿「五条くんの銀色の髪は、朝日を浴びた山際みたいで綺麗だと思うよ」
家入「そんなこと思ったこともないな」
椿「なら、夜の海で波頭を見たことはあるか? 月明かりで輝いて、五条くんのまつ毛みたいに見えるよ」
家入「………………あんた、それ絶対本人に言うなよ?」
椿「何故?」
家入「何でも。というかそもそも、景色を見てあいつを想起することがない」


***


椿「君が共に死んでくれと言うのなら、そうするだけの気概はあるぞ」
椿「その程度の覚悟なら、とうの昔に出来ている」


***


釘崎「椿さんって肌綺麗よね」
椿「ありがとう。年齢も年齢だから、気を遣っているんだ」
釘崎「どこのメーカー?」
椿「**だよ。でも、私に合っても、釘崎さんに合うかは分からないから、使うなら気を付けて欲しい」
釘崎「分かってるわよ。ねぇ、コツとかあるの?」
椿「コツ?」
釘崎「そ。面倒くさくなっちゃったときのモチベーションとか、そう言うのでもいいんだけど」
椿「私の場合は悟がいるから、と言うのが大きいだろうな」
釘崎「先生?」
椿「悟は出張が多いし、そうでなくとも、細々とした仕事で多忙を極めている。だから、一緒に出掛けたりもあんまり出来なくて……」
釘崎「…………確かに、私達の方が会う機会は多いかもね」
椿「そこは構わないよ。君達は彼の夢の一端だ。彼の庇護下にあるうちだけでも、大事にされていて欲しい」
釘崎「………頑張るわ」
椿「ありがとう。でも、無茶はしないように。………さて、続きを話そうか」
釘崎「うん」
椿「悟とはあまり会えない。急遽任務が与えられることも多い。一緒に出掛けるのも滅多に出来ない。だから、家で顔を合わせるときを、デートだと思って過ごしてるんだ」
釘崎「…………確かに、デートってなったら気合も入るわね」
椿「ああ。"明日は悟が帰ってくるから、褒めてもらわないと"って、そうやって誤魔化しながら頑張ってるよ」
釘崎「なるほどね。そうなると、やっぱ私も彼氏欲しいなぁ〜!」
椿「彼氏でなくとも、鈍感な周囲に"あれ? 釘崎さん、綺麗になった?"って思わせたくないか?」
釘崎「思わせたい」
椿「ふふ、そう思える気概があるなら、釘崎さんなら今よりずっと綺麗になれるよ。そうとも、今日の君も素敵だけれど、明日の君は今日よりずっと魅力的な女性さ」
釘崎「やる気出たわ。ありがとう、椿さん」
椿「どういたしまして」

釘崎「ちょっと先生、話があるんだけど」
五条「なになに? 野薔薇ってば顔怖いよ? ご機嫌斜めなの?」
釘崎「あんた、次家に帰るときはばっちりスーツで決めて帰んなさい。手土産は花束とお高いスイーツよ」
五条「………椿、何か言ってた?」
釘崎「何も。でも、あんたと会える時間が少ないから、あんたが家に帰ってきたときを、デートだと思って楽しんでいるとは聞いたわ」
五条「………………」
釘崎「あ、サプライズで帰っちゃダメよ。デートだと思ってるって事は、それなりにしっかり準備してるって事なんだから」
五条「ありがと、野薔薇。過去最高にかっこよく決めて、ディナーにでも誘うよ」
釘崎「プレゼント忘れんなよ」
五条「いくつか目星付けてるのあるから、その中から選ぶよ。いや、いっそ全部贈ろうかな……」
釘崎「全部はやめなさい」


***


椿実家との会話の一部。

「幸せにするだけでは駄目だ」
「あの子にも幸せにしてもらいなさい」
「一緒に幸せになるんだよ」


***


灰原「五条さんの好きなところを教えてください!」
椿「唐突だなぁ。というか、みんなが順繰りに来るから、同じ話ばかりしている気がするのだけれど」
灰原「すみません! 椿さんにこの質問をすると毎回違う答えが返ってくると伺ったので、本当にそうなのか気になってわざとタイミングをずらしました!」
椿「そうだったかな」
灰原「無意識! それだけたくさん五条さんのいいところを知ってるんですね!」
椿「ふふ、彼はいい人だよ」
灰原「はい!」


***


椿「彼がいつだか言っていた、"救えるのは他人に救われる準備のある人間だけ"と言う言葉。あれは真理なのだと思う」
灰原「そうなんです? 聞きようによっては、冷たい言葉に聞こえますけど」
椿「そう言う風にも聞こえるのか。まぁ確かに、全てを救わないと言う事は、誰かを見捨てると言う事だものな」
灰原「実際やってみると、凄く難しい事だってのは分かってるんですけどね。でもやっぱり、助けたいなって思っちゃいますね」
椿「その気持ちは分かるよ。でも、傲慢な人は言うんだろう。"全て救ってみせる"って。そんなことは不可能なのに」
灰原「………そうですね。何にも分かってない人ほど、そう言うことを口にする気がします」
椿「だから私は、その言葉を聞いて、彼を信頼に値する人間だと思った。誠実な人だと思ったんだ」
灰原「…………」
椿「私は彼のああ言うところが好きなんだ」
灰原「………椿さんって、本当に五条さんのことが好きなんですね。理由を聞くと、いつも違う答えが返ってきてる気がします」
椿「え、そうだったか?」
灰原「そうですよ! でも、いいなぁ。僕もそういう風に、良いところをいっぱい見つけて貰える人になりたいです!」
椿「ふふ、大丈夫だよ。君にもたくさん良いところがあるから」
灰原「ありがとうございます!」




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