かつて審神者だった少女
眩い初夏の日差しの中、清庭椿は歩いていた。いつものように、百葉箱のそばに現れる人ならざるもの―――――両面宿儺に会うために。
今日のお弁当はベーグルサンドだ。基本的に和食を作ることが多い椿だが、たまたま見掛けたテレビ番組でパン屋の特集が組まれていたから、何となくパンが食べたくなったのだ。
「おーい、宿儺ー………?」
いつも腰掛けている百葉箱の上に、その姿がない。辺りを見回すも、隠れられるような場所もないのに、その巨体が見つけられなかった。
「どこに行ったんだ………?」
付喪神は、本体から離れることが出来ない。付喪神と成ったことで得た身体は、仮初めのものでしかないからだ。
その姿がないと言うことは、本人が自分の意志でその姿を消しているか。または本体が別の場所に移動したか。あるいは本体に致命的な傷を負ったかである。
「まさか………」
百葉箱の扉を開ける。そこには宿儺の本体が収められている木箱があるはずなのに、その木箱がなくなっていた。