審神者と呪いの世界






「君が、五条椿ちゃん?」


 いつか見た、空の色を写したような瞳が椿を見つめる。
 雪のような白い髪に、晴れ渡る空色の瞳。人間というよりも、神様だと名乗られた方が納得してしまうような、美しい男だった。


「…………ぅ、れ、う……」


 そうです、と答えようとしたけれど、掠れに掠れた、か細い呻き声が漏れただけだった。仕方なく、重い身体に鞭を打って頷くと、くらりと視界が回る。散々に痛め付けられた身体は、何をするにも苦痛で億劫だった。


「無理しなくていいよ。死に掛けじゃん。こぉんなちびっ子相手に、よくもまぁこんな……」


 そっと、硝子細工にでも触れるような手付きで、優しく抱き抱えられる。
 隠しているつもりのようだけれど、隠し切れない殺気が肌に痛い。刺さるような殺意が皮膚を焼いて、口の端から呻き声が漏れる。


「ああ、痛かった? ごめんね、すぐに治してあげるからね」


 殺意を隠した、平坦な声だった。包帯の隙間から覗く瞳は酷く冷たくて、身も凍りそうだった。
 けれども、椿には危害を加える素振りを見せなかったから、椿は大人しく腕に抱かれていた。
 きっと、この人は大丈夫だ。何の根拠もなく、けれど確信を持ってそう思えた。
 久々に感じる優しいあたたかさに、椿はゆっくりと眠りについた。




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