審神者と呪いの世界






 酷い家だ。
 姓を五条、名を椿という幼子が、深いため息をついた。

 五条家というのは中々に歴史のある由緒正しい家柄のようではあったが、中身は他所様に誇れるようなご立派なものではない。化かし合いに精を出す狸や頭の硬い妖怪共が巣喰っている魔窟のような場所なのだ。そこに住まうもののけのような連中は、常に誰かの足を引っ張り、蹴落とし合っている。
 そんな場所であるからか、五条家の人間は常に負の感情を持っている。特に苛立ちを抱えている人間は多く、常にストレスの捌け口を探しているような状態だった。

 椿はそんな家の中で、かなり立場の低い位置にいた。
 幼い故に歯向かうことも出来ず、口答えするには呂律も回らない。
 そんな都合の良い存在を放っておくはずも無く、椿は体のいいサンドバックにされていた。そんな場所に生まれ落ちてしまった幼子の身体は、見るも無惨に傷だらけだった。

 酷い家だ、と幼女らしからぬ憂いを帯びた顔で、椿は再度嘆息した。

 幸いな事に、殺されるようなことはない。使い潰したいからか、世間体を気にしているのか。
 ごく稀に、"五条悟のお嫁さん"というお客様に死の淵に追いやられるけれど、それも五条家の誰かが助けてくれる。

 五条悟という人物と椿の繋がりは分からない。けれど、その人物は五条家でも相当な地位があって、世の中のお嬢様方にとってはお近づきになりたい相手であるらしい。そのためには椿が邪魔であるようだったので、血の繋がりを疑われているのだろう。
 けれど、それは無いだろうな、と椿は考えている。そんな人物の娘であるのなら、このような扱いは拙いだろうと思うのだ。こういう古い家は、血統というものを大事にしがちであるのだから。
 だからきっと、血の繋がりはない。けれど生かさず殺さずを貫かれているのは、この状態の椿を見て愉しんでいるからだろう。自分より下の存在がいる事で得られる安心というものがあるからだろう。

 最低だな、と軋む身体に顔を歪めながら、椿は空を見上げる。
 小さな窓から覗く空は、いっそ憎らしい程に美しく深い青色が広がっていた。


(さて、どうしたものかな………)


 晴れ渡る空を見上げながら、それでも椿は生きることを諦めてはいなかった。




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