審神者と呪いの世界






 それは久々の帰省だった。悟にとっては帰りたくもない実家だが、帰らざるを得ない理由がいくつかあった。頭の硬い古狸共の話は聞く価値もないと思っているけれど、そういう面倒な連中に限って権力だけはあるのだ。肝心なときに横槍を入れられたくないので、直接圧力を掛ける必要があった。
 また、どうしても確かめなければならない事があったのだ。最近耳にするようになった、とある噂について。

 曰く、五条悟には子供がいる。

 悟には全く心当たりのない話であった。けれど、呪術界に倫理観や人道というものは存在しない。呪胎九相図などが良い例だろう。そう言った存在も実在するため、噂の真偽を確かめねばならなかったのだ。

 そして帰省して、悟は怒りのあまりに実家を半壊させた。

 噂通り、子供が居たのだ。まだ2歳か3歳程の幼い子供が、傷だらけの状態で放置されていたのだ。
 家に母親は居なかった。後に調べて判明した事だが、悟の子を産んだ事で他の呪術師一族に始末されたようだった。
 それも当然だ。五条家との縁を結びたい一族は掃いて捨てるほど居るのだ。婚姻関係を結びたい娘も山のようにいる。そんな所に五条悟の子供を産んだという女が現れたのだ。暴挙に出る一族が現れてもおかしくはない。本当は子供ごと殺したかったようだが、五条家が子供の命だけは助けたらしい。けれど悟と似ていないために、五条家は血縁関係を疑っているようだ。
 調べて確かめようにも、調べるのに使えそうなものは悟本人が徹底して残さないようにしていたために、調べることが出来ないでいたらしい。それ故に子供は蔑ろにされていたようだった。

 子の母親と悟に面識は無かった。そこそこ名の知れた一族の娘だったので、会合などですれ違ったことくらいはあるかもしれないが、悟には見覚えのない娘だった。
 その娘の一族が、どこかで入手した悟の精子を使用して、娘に子供を産ませたのだ。
 五条悟と、ひいては五条家との縁を結びたいが為にそこまでするのかと、悟が怖気を感じる程の狂気だった。

 そうして産まれた子供に悟の面影は殆どない。
 黒髪に黒目。整った顔立ちをしているが、悟のような目を奪われるような美しさはない。じっと見つめて、ようやくその顔が端正なものであると気付く。
 似ているところなど一つもないではないかと、きっと誰もが血の繋がりを疑うだろう。けれど、悟の六眼が、確かに自身との縁を事実として映していた。念のため行ったDNA鑑定でも、五条悟が父親である事を結論づけていた。

 引き取ろう、と思った。父親になれるかは分からなかったが、澄んだ瞳が生きる事を渇望していた。だから、生かさなければならないと思ったのだ。
 美しい瞳だった。狂った世界の中に居ても尚、輝き続ける星の瞳。それが悟の目には、ひどく尊いものに映ったのだ。ずっと、そうあって欲しいと願ってしまう程に。

 願わくば、この星のような瞳が濁ることがないように。そのような世界が作れますように。




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