かつて審神者だった少女
相変わらずトラブルホイホイな姐さんと、頭が痛い宿儺。
「今日は賑やかな一日だったよ」
「お前が大人しく過ごせた日の方が珍しいだろう」
「いや、今日は本当に凄くて。階段から落ちてきた女の子を受け止めたら一目惚れされてしまって、その場で告白されてしまったんだ」
「また誑したのか、お前は。この前も女に惚れられていただろう」
「誑かしたつもりはないんだが。………それで、混乱しているのだろうと思って落ち着かせようとしたんだが、その場に居合わせた別の女の子が『抜け駆け!』と叫んで言い争いを始めてしまったんだ」
「泥沼か。愉快ではあるが、醜いな」
「そうしたら、どんどんと女の子達が集まってきて、大乱闘もかくやという騒ぎにまで発展してしまって、止めるのに苦労したよ。怪我人が出なかったのが救いかな」
「なかなかの混沌だな」
「まぁ、刃物を持ち出さなかっただけ可愛いものだよ」
「待て。あるのか? 刃物を持ち出されたことが?」
「『私のために争わないで』と叫ぶべきだったかな………」
「答えんか、阿呆。と言うか、何だそれは」
「こういう複数人に取り合われるときに言う鉄板のセリフかな」
「鉄板なのか、それが………」
たらしな姐さんが呪われない訳がない。
「こんにちは、宿儺。今日は少し肌寒いな」
「………………」
『セぇんぱぁァぁイ………スキ……スキィィィイ゛イ゛………!』
「宿儺?」
「………いや、そう言えばお前は見えんのだったな………」
「うん?」
『ツバキ様ァァァ………! ワタシヲ見テェ………!』
「………お前、今までよく生きていられたな?」
「どういう意味だ?」
「何、大したことではない」
少し未来、五条悟との会話。
「椿の術式で励起される宿儺って、生前の姿で顕現されるんでしょ? 四本腕の化け物だよ? 怖くなかったの?」
「付喪神は物を愛する人の心から産まれることが多いから、人の姿を模倣した、美しい見目をしていることが多い。だから異形と呼べる姿をしているのは珍しく思ったけれど、怖いとは思わなかったかな」
「じゃあ、どんな感想を持ったの?」
「この学校の百葉箱は100年の歴史があるのか、と」
「待って、つまり宿儺を百葉箱の付喪神と勘違いしてたって事? 何それウケるwwwww」
「だって百葉箱の中に呪物があるなんて思わないだろう?」
「まぁ、そうだね。でも、あいつの邪悪さは感じ取れたはずだ。それでも交流を続けたのはどうして?」
「好奇心が勝ってしまって」
「あの邪悪さを前に??? 肝座りすぎじゃない??? 馬鹿なの?????」
「最終手段として、祀っておけば何とかなるかなって」
「なんでそうなった???」
「日本三大怨霊の扱い」
「納得した」
「まぁ仮に殺されたとしても、それまでの命だったと言うことだし、私が彼よりも悍ましいものに成り下がって、一緒に地獄へ連れて行くくらいの気概はあったから」
「うーん、椿って実は結構イカレてるね???」
「五条さんのイカレてる基準って、結構ゆるいんだな」
「そうかな?」
「あなたは優しいから、本当に悍ましいものを理解できないんだろうな」
「………君、何で呪術師の才能ないの。結構良い呪術師になりそうなのに」
「今居る呪霊よりも悍ましいものが産まれてしまうからじゃないか?」
「………そうかもね」