幸せの捜索願 番外編
虎杖の提案で「いっぱい遊んで美味しいものを食べて五条を待つ」ことになった私は、高専の校舎に迎え入れられた。
小学生の下校時間は、丁度おやつ時だ。育ち盛りの高専生達はもちろん、私もお腹が空く時間帯である。いっぱい遊ぶ前に、美味しいものを食べることとなった。
「おやつ作るって事で調理室に来たわけだけど、材料とかあんの?」
高専内には食堂の他に調理室が設けられており、自由に使用する事が出来るらしい。材料は各自で用意するか、補助監督達の好意で用意されているものを使用してもいいそうだ。
調理室に設置された冷蔵庫や棚を確認してもらい、使っても良いものを見せてもらう。誰かのお裾分けらしいりんごやじゃがいもが大量に見つかったため、それを使っておやつを作ることとなった。
「椿ちゃん、何作りたい?」
「その前に、この材料で何作れんの?」
「これだけあれば、色々作れますよ」
りんごなら定番のアップルパイに始まり、焼きりんご、マフィン、タルトタタン、ヨーグルトケーキ、パンプディング、りんご版ハッセルバックも良いかもしれない。
じゃがいももじゃがバターやフライドポテト、いももち、焼きドーナツ、ポテトチップス。挙げ出したらキリが無い。
「ガトーインビジブルを作りましょう」
「「「ガトーインビジブル?」」」
ガトーインビジブルとは、その名の通り「見えないケーキ」と言う意味のフランスの焼き菓子だ。牛乳、卵、小麦粉(薄力粉などでも出来る)で作る生地に、薄くスライスした果実をたっぷり入れたケーキのことである。焼き上げると生地と材料が何層にも重なり合っており、美しい層をなしている。見た目にも楽しいケーキだ。
じゃがいもなどの野菜でも作る事が出来、おやつにもおかずにもなる。
「簡単に言えばりんごのケーキです。中の具材をじゃがいもに変えればおかずにもなります。せっかくだから、両方作りましょう」
「それって難しいやつ?」
「いえ、簡単に出来ますよ」
りんごで作るガトーインビジブルに使用する材料はりんご、卵、砂糖、バター、薄力粉、牛乳だ。
じゃがいもで作るガトーインビジブルに使用する材料はじゃがいも、卵、ベーコン、塩胡椒、バター、薄力粉、牛乳だ。いつものレシピならここにチーズも加わるのだが、残念ながらチーズは無かったので今回は無しである。
またパウンドケーキ型やテリーヌ型も無いので、今回は耐熱容器を使用する。
「まずりんごとじゃがいもを薄くスライスしていきましょうか」
私と釘崎にりんごのスライスを。虎杖と伏黒でじゃがいものスライスを用意する。
禪院と狗巻には生地の準備を頼み、包丁を持つのに適さないパンダにはオーブンの予熱と溶かしバターの用意を頼んだ。
「椿ちゃん、スライス上手いね。めっちゃ綺麗」
「待って。私より上手なんだけど」
「ふふ、料理が好きなんです。作るのも食べるのも」
「好きこそものの上手なれ、ってやつか」
りんごを手に持って、かつらむきの要領で皮を剥いていく。皮付きでも美味しいけれど、皮の食感が苦手という人もいるので今回は剥いておいた。
皮を剥いたりんごを出来るだけ薄く、均一になるように切る。
釘崎がまだ切り終わっていなかったので、それを手伝いながら全体の様子を伺う。
伏黒がじゃがいもの処理に少し苦戦しているように見えたが、虎杖がサポートしているので大丈夫だろう。特に問題は無さそうだった。
狗巻達に用意してもらった生地に具材を馴染ませる。
きっちりと混ざったのを確認して、耐熱容器に具材を並べ、生地を流し込む。
断面を意識したいのなら、ここはきちんと層になるように重ねておくのが良い。特に初めて食べる彼等には、是非美しい断面を見て、目でも楽しんでほしい。綺麗な層になるように、丁寧に具材を並べた。
あとは予熱したオーブンに入れ、焼き上がりを待つだけである。
「思ったより簡単だったわね」
「しゃけしゃけ」
「でも、美味しそうだよな〜」
「はい。簡単だし、アレンジもききます。ぜひ色々な具材で試して欲しいです」
「へぇ、どんなのがオススメなんだ?」
片付けをしながら、焼き上がりを待つ。
オススメのアレンジを訊ねられ、少し考えてから答えた。
「りんごの方だったら、クリームチーズを混ぜ込んでも美味しいです。そのままだったらカスタード風味なんですけど、チーズケーキに近い味わいになります」
「そっちも美味しそう」
「ブルーベリーやラズベリーを入れるのも好きです。甘酸っぱいベリーの風味が良いアクセントになってくれるんですよ」
「あ、それ絶対好きなやつ」
「ナッツやアーモンドで食感と香ばしさのアクセントをつけるのも良いです。表面にまぶすようにトッピングすると、サクサクとした歯応えが楽しめますし、食欲をそそる香りがします」
「明太子……」
冷ましてしっとり馴染んだところを食べるのも良いけれど、出来立て熱々にアイスを乗せて食べるのも美味だ。生クリームを乗せたり、キャラメルソースをかけるのも良い。ほろ苦いソースが大人の味わいにしてくれるのだ。塩キャラメルにしてあまじょっぱい仕上がりにするのもオススメである。
クランブルをまぶして焼くのも良い。見た目も華やかだし、ほろほろサクサクの食感が良いのだ。
個人的に好きなのはりんごの間にいちごを重ねて、スライスアーモンドをまぶしたものが好みだ。味の変化や歯応えのある食感が楽しめる。
「じゃがいもの方だったら、ブロッコリーやほうれん草、アスパラ、枝豆、にんじん、玉ねぎ、かぼちゃを入れるのもオススメです。うちではじゃがいもにほうれん草、玉ねぎ、ベーコンの組み合わせが多いです」
「美味そう」
「美味しいですよ。あと、コンソメや粉チーズを混ぜ込んだりしても良いです。上からピザ用チーズをかけて、とろとろに溶かすのも最高です」
「おいやめろ! 本当に最高なやつじゃねぇか!!」
スパイスで香りをたたせたり、カレー粉を混ぜて風味を変えたり。本当に色々なアレンジのきく料理なのだ。混ぜて焼くだけなので、失敗も少ない。オーブンが無くともレンジやフライパンでも作れるし、私が元の世界に帰ったあとも、是非作って欲しいものだ。
楽しくなって饒舌に語っていると、禪院から悲痛な声が上がる。洗い終わったボールを拭きながら顔を上げると、皆一様に天を仰いだり、お腹を抑えたりしていた。
「どうしました?」
「どうしましたじゃねぇよ。今食えねぇもんの話すんなよ、拷問か?」
「なるほど、これが飯テロか……」
「何でチーズが無いんだ……」
「高菜ぁ………」
狗巻達がお腹を空かせたような顔をしていて、申し訳ないけれど懐かしい気持ちになった。私が料理の話をすると、刀剣達も同じような顔をしていたのだ。
「ふふ、すいません。シンプルなものも、それはそれで美味しいですから、是非楽しんでください」
「まぁ確かに、そのまんまでも十分美味しそうだもんな」
「そうね。凄くいい匂いがしてきたし、早く食べたいわね」
「しあわせのかおりですよね」
甘い香りと、香ばしい香りが漂ってくる。美味しいものの気配を感じながら笑うと、何故か伏黒に視線が集中する。不思議に思って首をかしげると、伏黒もきょとんとした顔で首をかしげた。
「…………お前ら、語彙が似てんなぁ」
パンダの呟きと同時に、焼き上がりを告げる音が鳴った。
***
オーブンから取り出すと、表面にこんがりとした綺麗な焼き目がついており、非常に食欲をそそる仕上がりになっていた。生焼けになっていないか確かめてみると、きちんと中まで火が通っていた。
「出来ました。切り分けて食べましょう」
「おー! 美味しそう!」
「皿用意したぞー」
用意された皿に、切り分けたガトーインビジブルを乗せていく。
断面もきちんとした層になっており、良い出来栄えだった。
宿儺も食べるかな、と考えていると、内側から遠慮する旨を伝えられた。どうも虎杖と一緒の卓につきたく無いらしい。ほんの少しの交わりなのに、どうしてここまで嫌えるのかわからないが、嫌だと言うなら仕方ない。また後日作って、恵達と一緒に食べてもらおう。
「わっ! 綺麗な層になってる!」
「ちょ、写真撮らせて!」
「そんなことしてたら冷めちまうぞ」
「熱々のうちに食べるのも良いけど、冷めても美味しいですよ。生地に具材が馴染むので」
「時間が経っても美味しいっていいね」
「はい。でも、今日は熱々で食べましょうね」
全員に行き渡ったのを確認して、席に着く。手を合わせて頭を下げる。
「それでは、」
「「「いただきます!」」」
声を揃えて、食事のあいさつをする。
みんなすぐにフォークに手が伸びて、ケーキを口にする。それを見守って、私も一口。
カスタード風味の生地とシャキシャキとしたりんごの食感が美味しい。酸味の強いりんごを使ったから、甘さの中にフルーツの酸味が丁度良い。見た目も良く出来たし、具材がぎっしり詰まっているので食べ応えも抜群だ。
フランボワーズやチョコレートを混ぜるのもありかもしれないな、と考えながらもう一口。目の前の一切れを楽しみつつ、次回を考えるのも楽しい時間だ。
「あ〜、美味しい〜! 出来立て最高!」
「アイス乗せてぇ……」
「しゃけいくら!」
「味薄いかなって思ったけど、ベーコンが良い味出してる〜!」
「確かに。これ、美味いな」
「ちっさいのによくこんな料理知ってたなぁ」
女性陣がりんご。男性陣がじゃがいもの方に見事に分かれた。
結構ぎっしり具材を詰めた筈だけど、あっという間に無くなってしまいそうだ。一応、夜蛾や五条の分も焼いているけれど、この分だとそちらも食べてしまいそうだ。
一応、虎杖の中にいる宿儺の分は取り分けてある。口があるのだし、食べられるには食べられるのだろうけれど、果たして食べてくれるだろうか。
「宿儺、宿儺」
「………何だ」
「あなたの分も取り分けてあるのだけれど、いかがだろうか? 甘いものは好きかな?」
「えっ!? 椿ちゃん優し過ぎん? いいよ、こんな奴に食べさせなくても」
「宿儺には気に入って貰えないかな?」
「いやいや、めっちゃ美味しいからそれについては大丈夫だけど!」
宿儺は虎杖の頬に目を開き、私を見下ろしている。虎杖は難しい顔をしていて、伏黒達は心配そうに私を見ていた。
そんな不穏な空気の中、宿儺が「寄越せ」と一言述べた。虎杖の手の甲に開かれた口に一口サイズに切り分けたケーキを入れる。彼はそれをじっくり味わうように咀嚼して、次を促される。それを繰り返して、お皿に乗った分は綺麗に無くなった。
「どうだった?」
「ふむ、食べ慣れん味だが悪くないな」
「それなら良かった」
「しかし、もう少し味の変化を付けても良いのではないか? 些か単調な味わいに感じたな」
「そうだな。私はいちごとか、ラズベリーのような酸味のある果実が合うと思う」
「ほう」
こちらの宿儺と同じで、呪いの王も食べる事が好きなようだ。私の意見に興味深そうにしている。
「あまじょっぱいのも美味しいし、りんごのガトーインビジブルにチーズをかけても美味しいかもしれない。チーズの塩気がりんごのさっぱりとした甘さを引き立ててくれると思うんだ」
「いちじくも合いそうなものだが」
「確かに、いちじくは熱を加えても美味しいものな。プチプチした食感も、良いアクセントになりそうだ」
他には何が合うだろうか。色々な果実を頭に浮かべながら、自分の分の続きを口に運ぶ。そしてふと、何だかやけに静かなことに気が付いた。
咀嚼しながら虎杖達に視線を向けると、彼等は頭を抱えたり、俯いたりしていた。
「…………何でそんな和やかに話せるのよ、椿ちゃん」
「宿儺もふっつーに会話してんなよ………」
「おかかぁ………」
彼等の反応を見て「ああ、そう言えば」と思い出す。この世界の宿儺は正しく"呪いの王"だった、と。
言葉では分かっていても、私の術式に組み込まれた宿儺には慈悲がある。神としての宿儺との関わりの方が多いから、どうしてもその事実が頭から抜け落ちてしまうのだ。
いつか、彼がこの手を離すときや、私が死ぬ時にきちんと道連れに出来る様に考えておいた方が良いかもしれない。彼には、黄泉路の案内をして貰わなければ。
そんな風に考えていると、ガラッと大きな音を立てて、調理室のドアが開いた。
「お疲れサマンサ〜! 五条先生のご帰還だよ〜! ってあれ? どうしたの、みんな」
五条の登場に、俯いていた顔が上がる。
五条に続いて夜蛾、それから見知らぬ男女が姿を表す。女性は何となく家入の面影があるから、おそらくはこの世界の家入硝子本人だろう。もう一人の気弱そうな男性は完全に初対面だ。誰だろう、と首をかしげる。
「やっほー、椿! 久しぶりだね」
「お久しぶりです、五条先生。お仕事お疲れ様です」
「ありがとー! いやぁ、椿ってば本当礼儀正しいね。もっと子供らしくして良いんじゃない?」
「私は恵達のお姉ちゃんなので、あの子達の前では格好良く決めたいんです」
「そっか。椿はお姉ちゃんだったねぇ」
わしゃわしゃと髪を撫でられる。
私が大人びて見えるのは精神年齢が見た目と伴わないからである。元々子供らしい子供では無かったけれど、人生二週目の私はそれに拍車がかかっているのだ。もっと甘えて良いのだと、五条が心配するのも頷ける。
けれど最初の人生で両親にきちんと愛されてきたし、二回目である今世では父に甘えさせて貰っている。だから何の問題もない。
「ところで、そちらの方達について伺いたいのですが……」
「ああ、あの二人ね。こっちの隈がすごい女の人が家入硝子、反転術式の使い手。こっちの眼鏡が伊地知潔高、補助監督をしてるよ」
「初めまして、伏黒椿です」
「君が噂の椿ちゃんか。よろしく」
「伊地知です。初めまして。小さいのにきちんと挨拶が出来て偉いですね」
「ありがとうございます」
隈に注目して紹介された通り、家入には深い隈が出来ていた。補助監督として紹介された伊地知の顔にも疲労の色が見える。
呪術界は万年人手不足で多忙な時期も多いと聞くが、本当にその通りなのだと改めて実感する。
「っていうかいい匂いすんね。何か食べてたの?」
「はい。ガトーインビジブルを作ってました」
「へぇ、フランスのお菓子だっけ? よく知ってんね」
「丁度五条先生達の分が焼き上がるころですよ。家入さん達もよかったらどうぞ。甘いのと、甘くないのがあります」
「お、やった! 僕甘いのね!」
「私達もいいの?」
「はい、たくさんあるので」
四人分のお皿を用意して、焼き上がりを待つ。
焼き上がりを告げる音が鳴って、焼き加減を確認する。きちんと焼けているのを確かめて、容器を取り出した。子供の私には少し重いので、取り出したのは虎杖と狗巻だけれど。
「………すごいな、君が作ったのか」
「いえ、皆さんに手伝っていただきました。とっても美味しく出来上がったので、是非召し上がってください」
「学長、これめっちゃ美味しいよ! 俺こっちのじゃがいもの方食べたんだけど、じゃがいもほくほくで止まんなくなるよ!」
「しゃけしゃけ」
「私はこっちのりんごの方を食べたんだけど、カスタード風味の生地にりんごの甘酸っぱさがベストマッチで美味しかったわ!」
「それな。生のままでも美味いけど、熱々のりんごもいいぜ!」
「それは美味しそうですね。私もりんごの方をいただきますね」
先生達に楽しそうに話しかける姿を見て、私の頬が緩む。お世辞ではなく美味しいと思ってくれたのか、学生達の分は綺麗に無くなっていた。
五条達の分と合わせると、大量の洗い物が出る。先に少しでも減らしておこうと、こっそりお皿を回収し、流しの前に椅子を設置する。小学生の身体には流し台が高過ぎるのだ。行儀が悪いのはわかっているが、踏み台がないので椅子の上に乗ってお皿を洗っていく。
水の音に気付いた伏黒が隣に並んで洗い終わったお皿を拭いてくれた。
「……声掛けろよ。一人じゃ大変だろ」
「ふふ、楽しそうだったので。でも、気付いて手伝ってくれて助かります」
「別に、美味しいもの食べさせて貰ったしな」
「一緒に作ったので、お相子では?」
「教えて貰った分がある」
「それも計上するんですか?」
律儀だなぁ、とくすくすと笑う。小さい笑いだったと思うけれど、隣の彼にはしっかりと聞こえていて、ムッとした顔を向けられる。
面白くない事があったときの顔が私の弟とあまりにもそっくりで、笑い声が漏れそうになる。
「もっと美味しいものも教えましょうか?」
「何があるんだ?」
「ナスとパプリカの甘酢炒め、パプリカのきんぴら、パプリカのマリネ、パプリカのカップ焼き、パプリカのツナ生姜和え……」
「お前、分かってて言ってるだろ。でも、生姜和えは気になる」
「ふふ、やっぱり。好きなものと嫌いなもの、一緒なんですね」
弟の恵も、生姜に合うものが好きで、パプリカが苦手だ。小さい子が好きな甘いおかずが得意ではなく、しょっぱいものの方を好んでいる。
今までの傾向から考えて、味覚も近いのではないかと思ったけれど、その予想は見事に的中したと言うわけだ。
「生姜和えはすごく簡単ですよ。パプリカの種を取って細切りにして、油を切ったツナ缶、すりおろした生姜、めんつゆを混ぜるだけ。冷蔵庫で冷やして、しっかり味を馴染ませるのがポイントです。最後にお好みで白炒りごまをふりかけて完成です。さっぱりしているので、食欲がない時にも食べられますよ。また、他の野菜でも代用出来ます」
「美味そう。夏とかに良さそうだな」
「パプリカの旬は6月から9月頃ですよ」
「………ピーマンとかで作る」
「ピーマンも同じ時期が旬です。ピーマンで作っても美味しいですよ」
話しているうちに、皿洗いが完了する。お皿を仕舞っていると、こちらに気付いた禪院が私の代わりにお皿を仕舞ってくれた。
「わりぃな、皿洗いまでさせちまって」
「料理は片付けまでが料理ですから」
「…………悟に見習わせてぇ〜〜〜!」
「僕が何って?」
五条がりんごを齧りながらこちらを振り向く。お皿には耐熱容器の半分程の量が乗っていて、夜ご飯が食べられなくなるのではないかと心配になる。
「何でもねぇよ! で、味はどうよ?」
「うん、美味しいよ。僕としてはもっと甘くても良いけど」
「甘いものが好きな人はアイスを乗せたり、キャラメルソースをかけると満足出来ると思います。今日は材料がなかったので出来ませんでしたが、また食べる機会があったら試してみてください」
「えー、それ絶対美味しいやつ! 今食べたい!」
「今は難しいですね。今日はそれで我慢してください」
ぴしゃりと言い放つと、「ちぇー」と唇を尖らせながら次の一口を口に運ぶ。拗ねると唇を尖らせるのは学生の五条と同じ仕草だ。世界が違っても、年を重ねても、変わらないものは変わらないようだった。
「家入さん達はどうですか? お口に合いましたか?」
「うん、美味しいよ。オシャレだし、ビールとかワインに合わせたいな」
「野菜がしっかり摂れるし、食べ応えもあっていいな。味も美味しい」
「私もとても美味しいと思います。でも、作るの大変だったでしょう?」
「お口に合って良かったです。でも難しい工程は無いし、一人で作った訳ではないので」
言ってしまえば、切って混ぜて焼くだけである。料理が苦手な人には大変な工程だろうけれど、料理が好きな人間にはそこまで苦になる様な作業ではない。美味しいと言って食べてくれたら、それで全てが報われるのだ。
「あ、そうだ。高専に帰ってきた時に門見たんだけど、あそこから帰れそうだったよ」
「えっ」
シャクシャクと、おかわりしたケーキを咀嚼しながら、五条があっけらかんと言った。突然の報告に目を白黒させてしまう。
「…………悟、そう言うことは真っ先に言うべきだろう」
「ほんっと、そう言うところだぞ、五条」
「ご、五条さん。分かっているなら、最初に不安を取り除いてあげるべきでは……」
「だってみんな楽しそうだったし。あとおやつ美味しそうだったから」
五条の言葉に、大人達が米神を抑えたり、眉間に皺を寄せたり、顔を青くさせている。学生達も皆一様に青筋を立てたりしていて、酷く憤っている様子だった。
「…………………………帰れるのなら、それで良いです」
言いたい事は多々あったけれど、それが全てだった。
