幸せの捜索願






 学校帰りのことだ。帰路の途中で見知った人影が、私に向かって手を振っていた。五条と夏油である。


「こんにちは、五条さん、夏油さん」
「こんにちは、椿ちゃん。体調はもう平気?」
「はい、もうすっかり良くなりました。この間はご迷惑をお掛けしてすいません。心配してくださってありがとうございます」
「……ホントに大丈夫かよ?」
「大丈夫ですよ。五条さんも、病院に連れて行ってくださってありがとうございます」
「……おう」


 私が行方不明になって、真っ先に捜索を提案してくれた夏油。居なくなった私を見つけて、熱を出していた私を保護してくれた五条。二人に心から礼を言うと、夏油は安心したように微笑んだ。五条はぐったりとしていた私を見ているからか、額やら頬やらを触り、熱がないかを確かめている。
 五条は私に熱がないことを確認して、ようやくほっと胸を撫で下ろした。


「今日はお見舞いに来てくれたんですか?」
「それも目的の一つだよ。実は話しておきたいことがあって」
「話しておきたいこと?」
「お前が家出した原因になった女について」


 家出ではないのだけれど、と思ったが、訂正するのも違う気がして、そのままにしておく。
 それよりも、例の少女がどうしたというのだろう。わざわざ出向いてまで話しておきたいような事態が起きたのだろうか。


「死んだよ、あの女」
「えっ?」
「任務に失敗したみたいでね」


 ―――――入学してきて初めての任務だったよ。
 淡々と、二人は冷静に告げた。
 慣れているのだろう、流れ作業を行っているような雰囲気だ。


「彼女は家の都合で途中入学してきた子で、彼女については私達もあんまり詳しくは知らないんだ」
「でも何て言うか、箱入りのお嬢様って感じだったな。夢見勝ちっていうか、自分は特別だと思ってる感じ」
「だからだろうね。自分だけは死なないと思って、きっと呪霊を舐めてかかったんだろう」
「その結果が死体も残らない無残な死。現場には血痕が残っていただけだった」


 ああ、喰われたのか。漠然とそう思った。
 呪術師の死は、死体が残れば御の字だという。殆どの場合、肉体は残らないようだった。
 きっと、多くの呪術師がそうして死んでいった。呪霊の被害者達も。
 彼らはきっと、そんな現場をたくさん見てきたのだ。だから、感情を殺す術を識っている。

 交互に言葉を紡ぐ二人は、何の感情も乗らない、酷く冷めた顔をしていた。


「君が歩もうとしているのは、こういう道だよ。いつ誰が死んでもおかしくはない。それでも、君は進むのかい?」


 夏油が顔を歪めた。冷たい仮面の下に隠していた顔を、私に見せたのだ。
 夏油は、思い詰めているようだった。彼は酷く真面目で、優しすぎるのだ。だからきっと、もっと簡単に考えればいいことも深く考えすぎてしまう。


「はい。覚悟は出来ています」


 死ぬ覚悟も、生きる覚悟も。
 私は死を選んでも、生を選んでも、足下に広がるのは地獄への道だ。だったら、足掻く余地のある生を選びたい。
 何度聞かれても、何があっても、私はこの道を歩んでいくと決めたのだ。


(そもそも私は―――――)


 ―――――地獄なら、すでに一度堕ちている。




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