幸せの捜索願
その光景を見た瞬間、私の目の前が怒りで真っ赤になったような錯覚に陥った。
お使いの帰りらしい津美紀を見つけて、声を掛けようとしたときのことだ。ニタニタと笑う呪霊が、津美紀に纏わり付いているのが目に入る。
祓わなければ、と。津美紀の害を除かなければと、宿儺を呼び出そうとした瞬間。津美紀の首に、その呪霊の指が掛かる。
脳が沸騰して、血液が逆流したような感覚がした。
そこから後のことは覚えていない。
ふと我に返って、私は目を見開いた。私の足元で、津美紀を害そうとした呪霊がぐちゃぐちゃに潰れていたのだ。
私がやったのだろうか。自分の姿を見下ろせば、呪霊の体液のようなものが付着している。
呪霊は死体を残さない。それはすぐに消え失せた。
「お姉ちゃん?」
不思議そうな津美紀の声に、私は慌てて津美紀を振り返った。津美紀はきょとんとした顔で私を見つめていて、特に変わった様子は見られなかった。
「あ、ああ、すまない。驚かせたな。ちょっと危ない虫がいたから、慌ててしまったんだ」
「そうなの? 刺されたりしてないかな?」
「大丈夫だよ。刺される前に、私が追い払ったから」
「そっか! ありがとう、お姉ちゃん!」
にこにこと笑う津美紀はいつも通りだ。間に合ったのだと、ほっと胸を撫で下ろす。
手を差し出されて、その手を握る。その手のあたたかさに、間に合って良かったと、柄にもなく泣きそうになる。
「ケヒッ、お前にそのような苛烈さが隠されていたとはなぁ?」
生得領域から一連の流れを見ていたらしい宿儺が、私の隣に降り立つ。彼は愉しげに口元を歪め、意外そうにからかってくる。
けれど、私にはそれが不思議でならない。この程度で苛烈だなんて、呪いの王にしては生ぬるい。
「殺らなければ殺られるなら、殺るだろう?」
それが自分の大切な人ならなおさらだ。そんなの、ごく普通の人間の考えで、当然の反応だろうに。
「宿儺、アレの殺し方を教えてくれ」
宿儺は口角を釣り上げて、凶悪に嗤った。私はそれを、了承と取った。