幸せの捜索願
呪術師になると決めて、私は専門的な話を聞く機会が増えた。その中で話題に挙がったのが恵の術式だ。
恵の術式は影を媒介に、式神を召喚するものであるらしい。父の実家だという禪院家の相伝術式であるという。以前宿儺が“血に根付いた“と表現していたけれど、あれは相伝術式ということを指していたのだ。
そんな恵は津美紀と影絵で遊んでいる。
恵自身は自分が術式を持っていることを知らないが、本能で理解している部分があるらしい。影絵で遊ぶのが好きで、何かと足下に目をやることが多いのだ。
影と言えば、私には思い出深い存在が居る。
「影を泳ぐ魚」
万屋街で出会った、不思議な生き物を思い出す。私が“白影”と呼んでいた白い魚だ。
彼、あるいは彼女は異界を泳ぐことの出来る高次元の存在である。思わず口をついた褒め言葉をきっかけに、お互いに挨拶を交わす仲になったのだ。
新たに生まれ落ちてから、彼のような存在を知覚できていないが、是非とも存在していてほしいものだ。白影はとても美しい存在だったから。
「なぁに、それ?」
「ああ、いや。『くじらぐも』という話を読んで、空を泳ぐ鯨が居るなら、影を泳ぐ魚がいてもおかしくないな、と思って」
「わぁ! 素敵だね!」
どうやら無意識に口から零れていたらしい。私の言葉を聞いた津美紀が不思議そうに首をかしげる。
咄嗟についた嘘を聞いて「見てみたい」とはしゃぐ姿がかわいらしい。髪を乱さないように頭を撫でると、津美紀は更に楽しげな声を上げた。
「影を、泳ぐ……」
私の言葉に、恵が考え込む様子を見せる。その小さな頭を撫でてみても、彼はじっと影を見下ろしていた。