幸せの捜索願
(何のお話してるんだろう……?)
日当たりの良い部屋で、一人でおしゃべりに興じているように見える弟を、津美紀がこっそり覗き見る。
津美紀には見えないが、姉の椿と弟の恵には“かみさま”が見えているらしい。おそらく恵は今、“かみさま”とお話をしているのだろう。
二人だけ見えている事実が、ほんの少し羨ましい。けれど、良いことばかりではないことも分かっている。何もない場所を見て恵が顔を強張らせたり、椿が何かから逃げるように津美紀の手を引くことがあるからだ。
きっと、綺麗なものだけでなく、恐ろしいものも見えるのだ。だから津美紀は、寂しい気持ちを押し殺すのだ。
(でも、楽しそうでいいなぁ……)
“かみさま”とお話ししている弟は、澄ました顔をしていることの多い恵には珍しく、とても楽しそうなのだ。目を輝かせて、頬を赤らめて、すごくかわいらしいのだ。
私も混じりたいなぁと、“かみさま”の姿に目を凝らす。
(あ……!)
一瞬、顔に入れ墨の入った男が見えた気がした。
(今のって、もしかして……!)
津美紀の頬が熱くなる。胸がドキドキと高鳴って、誰かにこの事実を話したくてたまらなくなる。この喜びを、誰かと共有したくなったのだ。
「見えた?」
津美紀の様子を見ていたらしい椿が、彼女の嬉しそうな顔を見て笑みを浮かべる。
津美紀はたった今経験した希有な出来事を共有するべく、姉の傍に駆け寄った。そして内緒話をするように口元に手を当てて声を潜め、答え合わせをするために椿に耳打ちする。
「お姉ちゃん! かみさま、お顔に模様のある男の人?」
「そうだよ。怖い?」
「ううん、怖くないよ。だって、恵が楽しそうだもん!」
「そうか」
頬が染まるくらいにはしゃいでいた津美紀だが、すぐにしょんぼりと眉が下がる。
「でも、すぐに見えなくなっちゃった……」
「大丈夫だよ。一度見えたのだから、また見えるようになるさ。それより、ご飯を作るのを手伝ってくれないか? 宿儺のお供えも必要だから大変なんだ」
「手伝う! かみさま、何が好きかな?」
「何だろうなぁ。私の料理で気に入るものがあると良いのだけれど」
「お姉ちゃんのご飯美味しいから、きっとかみさまも気に入ってくれるよ!」
「そうだといいな」
仏頂面の多い末っ子の楽しげな様子を見ながら、姉二人で料理を作った。
その日のご飯は、いつもより少しだけ豪華だった。