幸せの捜索願
私―――――伏黒椿の人生はなかなかに波瀾万丈だ。
まず幼い頃に母を亡くし、父と弟の三人になった。
父は母を亡くしたことが原因か、父は色んな女性の元を渡り歩くようになった。
けれどあまり家に寄りつくことがなく、まだ赤ん坊と言って差し支えない弟の恵と二人きりで過ごすことも少なくはなかった。
頭がおかしいと思われるかも知れないが、私には前世の記憶があるため、普通の子供よりは何でも出来た。所謂手の掛からない子供だった。だから幼い弟と二人にされてもそこまで困ることはない。育児経験は無かったから、戸惑うことは多かったけれど。
けれど、初めて出来た弟がかわいかったから、何でも出来たし、どんなことでも頑張ってこれたのだ。
様々な女性の元を転々としていた父が再婚した。新たに妹も出来た。名を津美紀という。
父は母を愛していたから、再婚には驚いたし、何も思わなかったわけでは無い。けれど、父が新たな幸せを見つけたことは純粋に嬉しかった。
父が母の死を乗り越えたのだと思っていた。けれどそれは間違いで、母の死は間違いなく、今もなお父の心に暗い影を落としているのだ。
だから父は帰ってこない。新しい家族が出来ても、そこに母が居ないから。
優しかった義母も、家に寄りつかなくなった。義母は私達ではなく、父と一緒に暮らしたかったのだろう。父の居ない家に、価値を感じていないようだった。
そのうちに、父よりも義母の方が家に居ることが少なくなった。子育てが億劫になったのか、新しい人を見つけてしまったのか。理由は知らない。興味も持てなかった。幼い弟妹の方が大事だったから。私達に関心を示さない義母よりも、「お姉ちゃん」と慕ってくれる二人を守りたかったから。
頼れる大人が居ないというのは、酷く心細い。何かあったときに、子供の身体では出来ることが限られてしまう。
また、大人の庇護がないことがバレたときが一番怖かった。三人揃って施設に入れるのなら良いけれど、顔も知らない親戚に引き取られることにでもなったらたまらない。彼らには申し訳ないけれど、二人と離れるなんて考えたくも無かったのだ。
けれど、それは弟妹も同じ考えだった。離れたくないと、二人も大人が居ないことを隠すことに協力してくれたのだ。それだけが救いだった。
また、もう一つ懸念があった。この世界には、前世の記憶にない存在が視界の端にちらつくのだ。
悍ましくて、禍々しくて。時折、人に害を為している素振りを見せる。前世での敵―――――時間遡行軍とは違うもの。
普通の人には見えなくて、誰もその存在に気づけない。
けれど私と、恵には見えている。津美紀には見えていないようだから、年齢によるものでは無い。おそらくは血筋によるものだ。
あれは危険なものだ。遠ざけなければならないものだ。
けれど、守るための術が無い。戦う力が無い。もしものときに対抗するための、手段が無いのだ。
恵には力があるようだった。影の中に蠢くものがある。それが何なのかは分からないが、恵に寄り添うもののようだった。きっと刀剣男士のようなものだろう。
けれど恵はまだ幼い。悍ましいものと相対させるわけにはいかない。させたくもない。
(その力を持っているのが、私だったら良かったのに)
―――――家族を守る、力が欲しい。