無気力な姐さん
夏休みになると、白鳥沢学園の生徒達は一斉に実家に帰省する。部活のために残る者も多いが、部活がない生徒達は殆どが家に帰ってしまう。牛島は前者である。部活動に所属していない椿は後者に当てはまるのだが、彼女は牛島と共に、お盆の時期にだけ帰省するようにしている。家に帰っても、彼女の両親は仕事があるからだ。椿を家に一人で置いておくことに不安があるため、彼と共に帰省することになったのだ。
お盆になり、二人が実家に帰省する。椿を連れて帰ってきた牛島は、ひとまず清庭家に向かった。彼女の両親が帰ってくるまで椿の面倒を見て、両親に引き渡したら牛島も家に帰るのだ。流石にそこまでは、と言われたこともあるけれど、牛島自身がそうしたいのだというと、二人は申し訳なさそうに感謝の言葉を述べた。
「………椿、水くらい飲め」
ペットボトルを持ち寄って、床に座り込んだ椿に声をかける。食事を抜くことの多い椿だが、この日は水すら殆ど飲んでいないのだ。夏の盛りの時期に、水分を摂らないのは危険だ。熱中症は命に関わるのだから。
「…………怒るなよ」
いや、いっそ怒りを見せて欲しい、と思いながらペットボトルの水を口に含む。椿の頬を両手で包み、上を向かせる。力が入っていないのか、一切の抵抗を感じない。口を開けさせて、水を流し込む。椿が喉を鳴らしたのを確認して、ほっと安堵する。けれど、ここまでのことをしても、彼女はされるがまま。
少しで良いから何かしらの反応を求めて舌を入れてみたけれど、抵抗することすらしなかった。うっすらと傷跡が残る肌に唇を這わせても、眉一つ動かさない。まるで、あたたかい人形に触れているようだった。
怒りも悲しみも、全てが通り過ぎてしまった。寂しさもあるけれど、それ以上に何もかもが虚しい。
口の端から零れた水を拭き取って、乱れた衣服をきちんと正す。自分の胸元に引き寄せても、椿はぼうっと焦点の合わない視線でどこかを見つめるだけだった。
「…………一体どうしたら、お前は俺を見る?」
尋ねてみても、その問いに対する返答は無かった。
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