うしさに






 山形の所属する美化委員会では、放課後に週に一回の校内清掃がある。学年ごとに持ち回りで行われるため、一年生に清掃作業が回ってくるのは三週間に一度であるが、これが中々に重労働だった。何せ、白鳥沢学園は広い。その全てを一度に掃除するわけではないが、一区画として区切られた場所がこれまた広いのだ。ゴミ集積所までの距離も長く、後片付けも一苦労である。その上、部活の時間も減るとなれば、億劫以外の感想が出ない。美化委員なんて二度となるものか、と決意しながら、掃除の際に出たゴミを持ち上げる。そのとき、「あれ」と聞き覚えのある声が聞こえた。


「山形くん、だったか?」


 声の方を振り返ると、そこには見覚えのある女子生徒が立っていた。つい最近、牛島の彼女として紹介された清庭椿である。彼女も美化委員だったようで、手には山形と同じように大きな荷物が抱えられていた。


「お、若利の彼女さんか。サニワさん、だっけ? 美化委員だったんだな!」
「ああ。今から集積所に向かうなら、一緒に行ってもいいか?」
「おう!」


 荷物を抱え直し、二人で集積所に向かう。裏門付近に設置されている集積所は、今回清掃作業を行うことになった正門付近とはほぼ真逆の位置にある。距離を考えただけでもげんなりするほどの距離だ。まぁ、体力作りだと思えば良いか、と持ち前のポジティブさを発揮して、山形は早く掃除を終わらせようと決意した。


「若利から聞いたんだが、山形くんはリベロなんだってな」
「お、そうだぜ。てか、若利とバレーの話するんだな。女バレに入ってんのか?」
「いや、薙刀部に所属している。昔、若利に誘われてバレーをしていた時期があってな。基本的なことなら頭に入っているんだ」
「薙刀部か、かっけぇな!」
「ありがとう」


 バレー部じゃないのか、と内心で驚く。同じ学年で、彼女以上に背の高い女子生徒は覚えがない。確かにバレーは背の高さだけで勝負が決まるものではないけれど、これだけの上背があれば、活躍だって期待できるだろうに。
 けれどもまぁ、誰も彼もが小学校や中学校でこなしてきたものを選択するわけではない。彼女もそうだっただけのことだろう。好きなものや、興味のあるものが多いというのは、決して悪いことではない。


「でも、リベロかぁ。私はレシーブがあまり得意ではなかったから、私には出来ないポジションだろうなぁ」
「どこのポジションやってたんだ?」
「ウイングスパイカーだったよ。場合によってはセッターもしていたけれど」
「へぇ、スパイカーかぁ。そんでセッターも出来るって、結構上手かったんじゃねぇか?」
「いや、背の高さで選ばれていただけだ。当時は若利よりも背が高かったしな」
「マジか!?」


 牛島は高校一年生の時点で180を越える長身だ。女子の方が早くに成長期を迎えるから、彼女の方が背が高い時期があってもおかしくはない。けれど、女子生徒より背が低い牛島というものが想像できないのだ。
 しかし、この少女相手ならば納得がいく。何せ、椿は180に迫る高身長だ。成長期前の男子生徒など、見下ろしてしまっていただろう。


「バレーはプレーするのも楽しいけれど、観客として見ている方が心沸き立つんだよな。ほら、若利みたいなエースに上がったら、絶対決めてくれそうだろう?」
「俺はプレーする方が楽しいけど、その気持ちは分かるぜ! バレーは見てても面白いし、エースに繋がったら“決まる!”って思うよな!」 
「そう、そうなんだ。あと、一枚ブロックでスパイクを止めたり、絶対拾えないだろう、と思うようなボールをリベロが拾った瞬間なんて、思わず歓声を上げてしまって」
「分かってんじゃねぇか!」


 リベロは、スパイカーやブロッカーに比べて目立たない。もちろん、スーパーリベロなどと呼ばれる選手には注目が集まるが、観客が目に留めるのは、やはりエースと呼ばれる選手だろう。けれど、バレーボールという“繋ぐ”スポーツにおいて、ボールを拾うことに特化した選手というのは重要だ。だから、その瞬間を切り取って、評価して貰えるというのはリベロである山形には酷く嬉しいものだった。きっと両手が空いていたら、思い切り背中を叩いてしまっていたかもしれない。
 それから二人は打ち解け合って、バレーの話や薙刀の話で盛り上がり、委員会を終える頃にはすっかり仲良くなっていた。


「君は良い奴だな。君が背中を守ってくれるなら、若利もきっと心強いだろう。仲間の背中を守る重圧は並のものではないだろうが、頑張って欲しい」
「お前も良い奴だぜ! 絶対、チームの背中を任せて貰えるような選手になるから、安心しろよな!」


 そう言って、二人はそれぞれの部活へと向かった。
 後日、「山形」「椿」と呼び合う二人を見掛けたバレー部員達が「いつの間に仲良くなったのか」と驚くことになるのだが、それはまた別の話である。




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