稲荷崎の姐さん






清庭椿
稲荷崎高校所属。治、角名のクラスメイト。
将来は学芸員になりたいと考えているため、その道に進学率の高い稲荷崎を選択。
剣道部に所属したかったが、大学費用を貯めるためにバイトを優先することに。
部活所属が必須のため、活動日の少ない家庭科部を選択する。


***


休み時間の雑談

治「清庭さん、それ購買のやつ?」
椿「うん? ああ、これか? そうだよ。美味しそうだったから、つい」
治「具沢山のサンドイッチってええよなぁ。美味い?」
椿「とっても」
治「次に見掛けたら俺も買ってみよかな」
椿「おすすめするよ。あと、コロッケサンドもおすすめ」
治「お、マジか。俺、まだ買ったことないんよな。メンチカツサンドとか、焼きそばパンとか買ってまうわ」
椿「コロッケのじゃがいもがゴロゴロしてて、食べ応えがあっていいんだ。お肉も結構入ってたよ。ソースもたっぷり」
治「そんなん絶対買うしかないやん。ええ情報ありがとう!」
椿「ふふ、いいえ」
治「でも意外やんな? 清庭さん、いつもお弁当やん? 購買あんま使わへんやろ?」
椿「そうだな。基本は自炊だから、あんまり使わないんだけど、お弁当だけじゃ足りないときがあって……」
治「分かるわぁ……。おかんの弁当は間食枠やわ……」
椿「運動部だと特にそうだろうな。間食用におにぎりでも作ってこようかなぁ」
治「清庭さんは米派? パン派?」
椿「パンも美味しいけれど、お米の方が好きだな」
治「分かる! やっぱ日本人は米やんな!」
椿「ふふ、だよな」
治「……なんや、清庭さんって結構話せるんやな。いっつも本読んでばっかやし、あんまし話したない人なんやと思ってたわ」
椿「そうでもない。でも、話を聞く方が好きかな。相手が楽しそうにしているのを見るのが好きなんだ」
治「俺も片割れのがよぉ話すさかい、聞き役のが多いなぁ」
椿「ああ、宮侑くんだっけ。確かに彼は賑やかな人だもんな。楽しそうな方を見ると、いつも彼がいるような気がする」
治「あれは騒がしい言うんやで、清庭さん」
椿「ふふ、そう思う人もいるだろうな。私は静かな場所も好きだけど、賑やかなのも嫌いじゃないんだ。一緒に騒ぐよりは、その様子を見ていたい派だけど」
治「確かに清庭さんが騒ぐイメージ無いわ。むしろ、一緒になって騒ぎ出したらめっちゃビビる自信ある」
椿「そこまで大人しい訳ではないんだけどなぁ」


***


宮治の性癖

治「綺麗な子が大盛りの飯をペロッと食べてまうの、ええよな……」
侑「まぁ、ダイエットや言うて何も食わん子より、一緒に食うてくれる子の方が気持ちええけど、お前の言う大盛りをペロッと食うてまうのはちょっと……」
角名「俺は人並みがいいかな……。エンゲル係数やばそうだし……」
治「何でや。普段澄ました顔した子が、美味いもん食って笑顔になるん、めっちゃええやろ」
角名「何か具体的だね? もしかして、具体例が居たりする?」
侑「おい、彼女ちゃうやろな!? 抜け駆けは許さへんぞ!?」
治「ちゃうわ! ちょっとええなぁ、思ただけやわ!」
角名「やっぱ具体例いるんじゃん」
侑「誰や? 飯食うてるとこ見るって事は、お前のクラスメイトか? お前のクラスにそんな綺麗な子なんておったっけ?」
治「お前、ほんまに失礼すぎるやろ」
角名「何でこいつにファンなんているんだろうね」
侑「で? 誰なん?」
治「言わんわ。どうせこき下ろすだけやろ、お前。ええなぁ思た子の悪口なんて聞きたないわ」
侑「はぁ~~~? 俺をなんやと思てんねん! 流石にそこまで性格悪ないわ!」
治「そこまでの奴やろ、お前は」
侑「あ゛ぁん!? なんやと、こらぁ!?」
角名「…………俺、分かったかも」
治「おん!?」
侑「おっ、誰や!?」
角名「でも、俺が思ってる子だったら、結構意外なんだけど」
治「黙っとって! ぜっっったい黙っとって!」
侑「めっちゃ気になるやん! 絶対当てたろ!」
治「やめぇや!!」

角名「答え合わせしていい?」
治「やめぇ……。角名は絶対当たっとるもん……。当てんといてぇ……」
角名「ふぅん。じゃあやっぱり清庭さんなんだ?」
治「おわあああああああああああああああ!!? なんで当ててくるん!? そんな見とったか!?」
角名「該当するの、清庭さんくらいじゃない? 普段は澄ました顔してて、美味しそうにご飯食べてる綺麗な子」
治「あかん……。ヒント出し過ぎてもた……」
角名「でも意外だよね。お前ら巨乳好きじゃん。清庭さんスレンダーだから、範囲外かと思ってた」
治「俺もぉ……」
角名「まぁ、顔は美人って言うか美形って感じで悪くないし、性格も悪くないし、治は女子の趣味は悪くないんだね」
治「喧しいわ。それやと俺が女子の趣味以外悪いみたいやん」
角名「ノーコメント」


***


角名も興味を持った話

角名「お前が気になるって言うから、ちょっと清庭さん観察してみたんだけど」
治「やめろ、見んな」
角名「見るなって言われても、清庭さんの席、俺の目の前だから」
治「名前順ずっこいわ……。席替えせんかな……」
角名「あの子めちゃくちゃ真面目だね。ノートめっちゃ綺麗」
治「分かる。字とかノートとか綺麗なイメージあるわ」
角名「うん、字も綺麗だったよ。ミミズがのたくったような字を書くお前とは大違い」
治「全部やないからええやろ! 眠気に負けたときだけや!」
角名「でも、先生がくだらない話とか始めると窓の外見てたりしてる。さっきの授業ではノートの隅っこにキツネ描いてた」
治「ずっこい……!! なんやの、それ! めっちゃ見たいやつ……!」
角名「俺も興味ある。……清庭さーん!」
治「っ!? おいっ」
椿「はーい?」
角名「今、こいつとノートの汚さの話してたんだけど、清庭さんのノートは綺麗そうだなって思って。参考に見せて欲しいなー?」
椿「別に構わないけれど、普通だと思うぞ?」
角名「いいよ-」
椿「はい、どうぞ」
角名「ありがとう。……おお、やっぱ綺麗」
治「ほんまや、めっちゃ見やすい」
角名「字綺麗で読みやすいね。……お?」
治「キツネや。かわええな」
椿「あー……。消すの忘れてた……」
角名「上手いね。何かのキャラクター?」
椿「……どうだったかな。どこかで見た気がするんだけど、覚えてなくて」
角名「ゆるキャラとかにいそうだね」
治「キツネ好きなん?」
椿「ああ、かっこよくて好きだよ」
角名「かわいいじゃなくて?」
椿「かわいいとも思うけど、かっこいいの方がしっくり来るんだ」


***


最終的に目的を忘れた

侑「今日はこっちで食うわ」
治「クラス戻れや」
侑「やって気になるやん。俺だけ知らんのも気に食わんし」
角名「お前とは合わなそうな子だよ。てか、俺も会わせたくねぇな」
侑「ますます気になるやん! てか、俺に会わせたないってなんやねん!」
治「お前みたいな人でなしと違ってええ子やからな」
角名「うん」
侑「あ゛ぁん!? お前らかて似たようなもんやろ!!」
治「俺はお前を見て、人に優しくしようと思ったんや」
角名「良い反面教師だね」
侑「なんやとこらぁ!!」

椿「ふふ、」

治「……! ごめんなぁ、清庭さん。俺等うるさかったな?」
角名「ごめん、侑騒がしいよね。ほら侑、クラス戻れって」
侑「その子なんも言うとらんやん! お前らどんだけ俺のこと邪険にしたいん!?」
椿「いや、違くて、楽しそうだなって。バレー部って仲良いな」
治「まぁ、チームスポーツやしな」
角名「こいつらは喧嘩するほど仲が良いってやつだから」
侑「ちゃうわ」
椿「ふふ。うん、そんな感じする」
侑「ちゃうって! もうそんな笑わんといて!」
椿「すまない」
角名「清庭さんって結構笑うんだね。あんま笑ってるの見たことなかった気がする」
椿「そうだろうか。楽しいなぁ、嬉しいなぁって思ったときは、結構笑っているつもりなんだけど」
治「清庭さん、物静かやから、あんま目立たんのやろうな。なんやろ、おっきな湖みたいなイメージ? あんま波立たん感じの」
侑「なんや、そのイメージ。意味分からんぞ、サム」
治「うっさいぞ、ツム。お前みたいなガキと違て、清庭さんは包容力のある大人なんや。懐が広くて、人間として奥行きがあんねん。お前は雨の日の水たまりや。底があっさーくて、バシャバシャバシャバシャうっさいねん。少しは大人しゅうせぇよ。俺も同じやと思われたないからな」
侑「誰が水たまりや! お前なんてペットボトルの底に残った水分やろうが! 何、自分は違うみたいなこと抜かしとんねん!」
角名「お前ら止めろ。……ごめんね」
椿「罵り合いは確かに気分の良いものではないけれど、これも彼等のコミュニケーションの一つだろう? 流石に殴り合いの喧嘩になったら止めるけれど」
角名「そのときは避難して。危ないから」
椿「不意打ちならいけると思う」
角名「やめて。絶対やめて」
椿「それにしても、宮くんのイメージ、何だか意外だな。買いかぶり過ぎな気がするし」
角名「そうかな。割と的を射てる気がするんだけど」
椿「ありがとう。素敵な印象を持って貰えて嬉しいよ」


***


いつかデートにしたい

椿「大盛りって言葉に惹かれてしまう」
治「ええ言葉よな! おかわり自由も最高やと思うわ!」
椿「分かる。でも、女の子にはあんまり分かって貰えないんだよなぁ……」
治「あー……。女子ってダイエットやー言うて、全然食べへんもんなぁ」
椿「そうなんだよな。食べない方が身体に悪いと思うんだけど。リバウンドとかもしやすいだろうに」
治「………嫌やなかったら、今度俺と一緒に飯行かへん?」
椿「えっ?」
治「ええ店知っとるんよ。定食とラーメンやったらどっちがええ?」
椿「定食かな……。でも、いいのか? 彼女さんとか居るなら、私と出掛けるのは拙いんじゃないか?」
治「そんなん居らんもん。清庭さんが良ければ何も問題ないで」
椿「…………そう、か」
治「あっ、いや、下心とかそんなんやなくてな!? 俺の友達みんな飯より好きなもんばっかやねん! やで、誘っても乗ってくれへんくてな!?」
椿「………ふふ、そう言うことなら良いよ。私の予定を教えるから、都合のいい日を選んでくれ」
治「えっ、ええんか!? 嘘やない!?」
椿「もちろん」
治「よっっっしゃ!!!」
椿「私の予定はこれなんだけど、どうかな?」
治「えーっと……この日とこの日とこの日なら平気やで!」
椿「分かった。なら、この日でどうかな?」
治「おん、時間とか集合場所はまた今度決めよか」
椿「分かった」
治「メアドって、聞いてもええ? 教えておいて貰った方が、時間とか決めやすいやろうし」
椿「いいよ」
治「……もう一個ええ?」
椿「うん?」
治「その次の休み、ラーメン屋も行かへん?」
椿「いいよ。楽しみだなぁ」
治「よっし! 俺も楽しみやわ!」
椿「最近、あんまり出かけたりしてなかったし、誘ってもらえて嬉しいよ」
治「清庭さん、結構バイト入れてるもんなぁ。何か欲しいもんでもあるん?」
椿「いや、そう言う訳じゃなくて、行きたい大学があって。親は気にしなくて良いって言ってくれてるんだけど、少しでも足しになるものがあった方が良いかなって」
治「……清庭さんって、ほんまええ子やな」
椿「………ありがとう」

椿(私はいい子なんかじゃない。これは罪滅ぼしだ)
椿(せっかく入れて貰った大学を、私は殆ど通うことなく放り出して、一生を終えてしまったから)
椿(だから今度は、きちんと最後まで通いたい。ただそれだけなんだ)
椿(だから私を、まるで綺麗なものを見るような目で見ないでくれ)


***


名前呼び

椿「なぁ、宮くん。このプリントの文字、見覚えあるか? 名前を書き忘れているみたいで、誰のものか分からないんだ」
治「えーと? あ、これ角名のやない? この特徴的な字!」
角名「え、マジ? あ、本当だ。これ俺のだ。ごめん、名前書き忘れてたみたいで」
椿「いや、構わない。はい、どうぞ」
角名「ありがとう。……ところで、清庭さんって侑のことも治のことも名字呼びだよね? 分かりにくくない?」
椿「宮侑くんはクラスも違うし、あまり関わらないから支障はないかな。今のところだけど」
角名「まぁ、確かに。なら、清庭さんの口から出る宮くんは治のことって思えばいい?」
椿「ああ」
治「………なんや、宮くんって変な感じするわ。名前呼びのが多いし」
椿「そうか? 名前で呼んだ方がいいだろうか?」
治「どっちでもええけど、そっちのが俺が呼ばれたって分かりやすいかなぁ」
椿「なら、治くん?」
治「お、おん」
角名「何照れてんだよ」
治「て、照れとらんわ!」
角名「名前呼びなんて今更じゃん」
治「うっさいわ! と、とにかく、侑のことは適当でええけど、俺のことは名前で呼んでな?」
椿「ああ。これからは治くんと呼ばせて貰うよ」
治「お、おん」

角名「よかったね、治」
治「……………おん……」
角名「ぶふっ! 顔真っ赤なんだけど。そんなんで名前呼ばれて大丈夫なの?」
治「……無理かもしれん。絶対おかしなことになってまう……」
角名「んぐふっ、ま、まぁ、そのとき俺がいたらフォローするから」
治「マジで頼むわ……」
角名「いつか清庭さんのことも名前で呼べたらいいねぇ」
治「………無理やぁ……」
角名「頑張れ」




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