藪を突いた好奇心






「え? ギルガメッシュが私に対してどこまで許すのか知りたい?」


 善は急げ、思い立ったが吉日。俺はその日のおやつ時、エミヤ特製のチーズケーキを食べに食堂に現れた結末さんに胸の内に湧いて出た感情をぶちまけた。
 結末さんに対する英雄王は寛大だ。どこかの世界線で彼と敵対していたらしいサーヴァント達が揃って二度見三度見をする位に。
 他の人だったら首を落とされている様な所業でも、相手が結末さんだったら笑って流したり、文句を言ったりはするものの、必要以上に怒ったりはしない。
 その上彼は結末さんをただの概念礼装ではなく、特別な存在として見ている。人間として在った時の名前を呼んでいるのがその証拠だ。
 彼は他の概念礼装や自分が認めたサーヴァント以外は歯牙にもかけない。明らかに特別な存在であるということが窺える待遇だ。
 興味が湧くのは当然であると主張する。


「まァ確かにギルガメッシュは私に甘いなぁと思わないでもないが……」


 そこまでかな? と言わんばかりに、結末さんは首をかしげている。
 俺たちの会話が聞こえていたらしい周囲のサーヴァント達がそんな結末さんを驚愕の眼差しで見つめていた。
 うん。その気持ちは良く分かる。英雄王の彼女に対する扱いは、他とは明らかに異なる。自覚がないのかと言わんばかりの視線を投げるのも頷ける。


「白野ォ!」


 思わず首をすくませてしまうような怒声が響く。噂の英雄王だ。
 結末さんに視線を向けていたサーヴァント達がさっと視線をそらす。関わりたくない、という感情が透けて見えるようだ。
 けれど怒鳴り声を上げられた当の本人はどこ吹く風。ケーキを頬張りながら、つかつかとこちらに向かってきた英雄王を見上げている。
 何という余裕の対応。その肝の据わり具合を分けてほしい。


「どこにおったのだ、貴様! この王に手間を掛けさせおって!」


 英雄王が再度怒声を上げる。
 どうやら結末さんを探して食堂まで来たらしい。他の人だったら自ら赴くのが当然といった風情で、自ら相手を探したりなどしない。
 やっぱり破格の対応だよなぁ、と思いながら結末さんを見やる。結末さんは口の中のケーキを飲みこみ、ようやっと口を開いた。


「もう準備できたの? さすが、ギル。早いね」
「ふん、当然だ。我の手にかかれば造作もないことよ」


 準備? と首をかしげる。そう言えば先程、宝物庫の財を見せてもらうと話していたことを思い出す。何かしら準備に手間のかかる財宝だったのだろう。
 気が乗らないと物臭な英雄王が手間を惜しまない時点で相当な待遇だ。
 というかさらっとあだ名で呼んだよ、この人。


「貴様が見たいというから用意してやったというのに、貴様という奴は。このような場所で菓子など貪りおって」
「ごめん。こんなに早く終わるなんて思わなくて」


 反省しているのか、結末さんはしょんぼりしている。そんな結末さんをこれ以上怒る気は無いのか、少々不機嫌そうにしているものの、それ以上の言葉は無い。


「あ、そうだ。ギルも食べる? チーズケーキ、美味しいよ?」


 結末さんがケーキを切り分けて、英雄王にフォークを差し出す。所望「あーん」という奴だ。
 あっちこっちで凄まじい音が鳴り響く。視線はそらしたものの、聞き耳を立てていたらしいサーヴァント達が椅子から転げ落ちたり食器をひっくり返している。
 これには俺もびっくりしてテーブルに頭をぶつけるところだった。
 かの英雄王もこれは予想外だったのか、目を瞠っている。その目は徐々に細められ、じっと結末さんを見つめている。その表情は不機嫌そうにも見えるし、何だか他の感情を表しているようにも見えて、形容しがたい。
 たっぷり30秒ほどの沈黙。英雄王が動いた。
 すっと結末さんに向かって手が伸ばされる。さすがにこれは結末さんでもまずかったか! と慌てるものの、最悪の事態には至らなかった。
 英雄王が結末さんの手に自分の手を重ね、フォークを引き寄せる。そしてぱくり、とケーキを口に含んだ。
 もぐもぐと咀嚼。ぐっと飲み込んで、ケーキを完食した。


「どう? 美味しい?」
「…………まぁまぁよな」
「そっか」


 「もうちょっと食べる?」「いらん」という会話を経て、結末さんは食事を再開する。
 ……今、ものすっごい光景を見てしまった気がする。
 俺の見間違いかと思って周囲に目を向けると、何人かと目が合う。
 アイコンタクトの末、今のが現実に起きた事実だと判明した。
 ……この人相手なら何しても許すんじゃないか? と天井を仰ぐ。


「……このくらいじゃ怒らないのか」


 ぽつり、と結末さんの呟きが聞こえた。
 そちらを見れば、結末さんは美味しそうにケーキを頬張っている姿があった。
 俺の視線に気づくと、結末さんはにこりと笑いかけてくれた。
 その瞳には俺と同じ好奇心の色が見て取れる。どうやら彼女にも火が点いたらしい。
 任せろ、と言わんばかりの力強い頷きに、俺もお願いします、と同じ強さで頷きを返すのだった。




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