藪を突いた好奇心






「しつこいですよ、英雄王! いい加減にしてください!」
「ふはははは! そう照れるでない、愛い奴め!」


 騎士王―――アルトリア・ペンドラゴンの怒鳴り声が響く。
 その声に、俺―――藤丸立香はまたか、と苦笑した。
 声がした方を見れば、俺の予想通り、そこにはアルトリアと英雄王―――ギルガメッシュがいる。
 どうやらアルトリアの見た目が好みらしい英雄王は、事あるごとにアルトリアにちょっかいを掛けるのだ。いつも冷静なアルトリアが猫のごとく威嚇する様を見るのが楽しいというのもあるだろう。今も毛を逆立てた猫のごとく英雄王を睨みつけるアルトリアをにやにやと笑いながら見下ろしている。
 アルトリアが可哀想であるし、見ているこちらの胃と心臓が痛いので勘弁してもらいたいのが正直なところだ。解決策が欲しい、切実に。


「また騎士王に迷惑を掛けているのか、あの人は」


 凛とした、涼やかな声が耳を打つ。振り向けば、そこには概念礼装『もう一つの結末』が英雄王に呆れたような視線を向けていた。


「結末さん……!」


 救世主が来た!
 俺は思わず『もう一つの結末』こと結末さんに駆け寄った。
 結末さんは英雄王のお気に入りの人物だ。相性が悪いにも関わらず自身専用の礼装の様に扱ったり、カルデアで過ごしているときも、かなりの頻度で行動を共にしている。
 その人畜無害そうな見た目通り、心優しい人である。しかし、時折物凄いイケメン魂を垣間見せて周囲の人間をときめかせたり、英雄王の手綱を握っている様な言動を取ることも出来る凄い人だったりもする。
 彼女ならこの状況を打破できるかもしれない……!
 そんな期待を込めて結末さんを見つめる。そろそろアルトリアの我慢の限界だ。聖剣をぶっぱされる前に止めてください!
 そんな俺の願いが通じたのか、結末さんは了解した、と言わんばかりに力強く頷いた。
 結末さんが颯爽と英雄王のもとに向かう。その足取りに迷いは無い。
 さぁ、どうやってかの暴君を止めるのか。映画を見るような高揚とした気分で彼女の背中を見つめる。
 結末さんは英雄王の背後に立ち、右手を持ち上げた。
 一体何を―――?


「えいっ」


 疑問はすぐに解消された。軽い掛け声と共に、結末さんはあろうことか、英雄王の後頭部にチョップをかましたのだ。
 自分の口からひっ!、と情けない悲鳴が上がる。自分がそんなことをすれば、宝剣宝槍で滅多刺しにされるだろう。
 英雄王のお気に入りらしい彼女も、さすがにここまでの不敬は許されていないだろう。結末さんがズタズタにされる未来を想像してしまって、顔から血の気が引くのが分かった。
 同じ結論に至ったであろうアルトリアも顔を青くさせ、結末さんを守ろうと聖剣を構える。
 しかし振り向いた英雄王の顔は殺意を滲ませるでも、怒りを模っているわけでもなかった。確かにその顔は不機嫌そうではあったが、楽しい遊びを邪魔されて拗ねている様な、そんな印象を受けた。


「む。何をするか、白野」
「騎士王が嫌がっているようだったので止めに来たんだ。あんまりしつこいと本気で嫌われるよ?」
「何を言うか、セイバーは照れているのだ。そんなことも分からぬのか?」
「……本気で言ってるの?」


 頭が痛い、と言わんばかりに額を抑え、結末さんがため息をつく。
 申し訳ない、と結末さんがアルトリアに向かって頭を下げるのを、アルトリアが慌てて止める。
 そんな結末さんの様子に、英雄王が口を引き結ぶ。自分は不機嫌だ、と主張しているような表情だった。
 何というか、子供っぽい印象を受ける。


「それより、今日は宝物庫の財を見せてくれる約束だったじゃないか。忘れたとは言わせないぞ?」
「む。我に忘却は無い。気が逸れておっただけだ」
「なら、早く行こう」
「そう急かすな。財は逃げぬ」


 英雄王の手を取って、英雄王の部屋がある方に向かって歩いていく。手を握られても文句ひとつ言わない。それどころかさっきまでの不機嫌さはどこへやら、一瞬で上機嫌になってしまった。
 そんな英雄王をアルトリアはこの世にあってはいけない物でも見たかのような驚愕ぶりで見ている。
 彼らが向かう先にいた他の英霊たちも、皆ぎょっとした表情になったり、綺麗な二度見を披露している。それくらいにはありえない光景なのだ。
 そんな光景を平然と作り出してしまう結末さんに、とある感情を抱いた。


「結末さんって、どこまで許されてるんだろう……?」


 純粋な興味だ。好奇心が首を擡げる。
 これが英雄王にばれたら胴体から首がサヨナラするだろう。けれど、一度思い至ってしまったら、もう駄目だった。
 知りたい、という欲求が抑えられず、俺は一人決意を固めた。




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