天文台にて目を覚ます 3
まず、私―――岸波白野は立香たちの話を聞くこととなった。
彼女たちの歩んできた道のりは壮絶の一言に尽きた。
人理焼却。特異点の修正。人類悪との対決。
それを立香は最後のマスターとして、たった一人で背負ってきたのだ。
それがどんなに辛いことなのか、私には分かる。
「……その手から零れ落ちたものもあっただろう」
きっと何度も役目を放棄したいと思ったことだろう。何で自分だったのかと嘆いたこともあっただろう。
「きっと何度も絶望しただろう」
それでも守りたいものがあったから、諦めたく無いものがあったから、彼女は戦い続けてきたのだ。
それはきっと、人類のためなどではなく―――。
「けれどあなたは大切なもののために戦い続けてきた。たとえば、後輩との何気ない日常のために」
立香が、息を飲むのが分かった。
ああ、やっぱり、彼女は私と同じだ。
「逆行運河/創世光年」などという大偉業の前に、それはあまりに小さな願い。
ささやかで漠然とした、けれども心からの望み。
「お疲れ様、立香。良く頑張ったね」
―――貴方の願いは、確かに届いた。
温かな想いが、ささやかな希望が、はるか高みにさえ、ソラにさえも打ち勝ったのだ。
そっと髪を撫でると、立香の目から涙がこぼれた。