天文台にて目を覚ます 3






 白野さんの解呪と治療が完了したのは、彼女を発見してから3日後のことだった。
 ようやく容態も安定し、後は自然と目を覚ますのを待つだけ、という状態になって、私―――藤丸立香は安堵のため息をついた。

 まず解呪については白野さんの負担にならないように、賢王を中心としたキャスターのサーヴァント達が一丸となって解呪が行われた。その結果、彼女の体は長い呪縛からようやく解放されたのある。
 そしてその体からは魔術教会の人間が言っていたように、確かに聖杯の気配が探知され、事情を知らないサーヴァント達が新たな特異点か、と処置室に押し寄せてきたものだ。なお、彼らは英雄王と賢王、魔術師たちへのお仕置きを済ませた子ギルによりすぐさま追い払われていた。
 その時英雄王という新たなサーヴァントが増えていたことに驚かれたが、詳しいことは白野さんが目を覚ましてから説明する、と伝えて引き下がってもらった。私自身も良く分かっていないことが多いし、本人の口から説明してもらった方が早いだろうという考えだ。
 次いで外傷の治療が行われた。こちらは英雄王が中心となり、ナイチンゲールやサンソンを交えた医療スタッフ達が英雄王の用意した医療器材を用いて尽力してくれた。
 何でも異星の技術であるとかで、地球の医療がこのレベルに達するには数百年の月日を要するのだとか。何でそんなものを持っているのか、とかいろいろ聞きたかったけど、それも白野さんが目を覚ましてからだ。

 ちなみにロビンと子ギルに縛り上げられた魔術教会の魔術師たちはというと、あの後ロビンの言葉通り、空き部屋の一画に放り込まれていたそうだ。
 目を覚ました彼らを子ギルがお仕置きしたそうなのだが、その内容は不明だ。子ギルはただにっこりと可愛らしく笑うだけだし、ロビンに至ってはそのことを聞いただけで顔を真っ青にして目をそらして教えてくれない。
 ロビンの反応と、彼らが退散していくときの様子から察するに、かなりえげつないことをしたのだろう。訳の分からないことを泣き叫びながら転がるように逃げだしたり、中には幼児の様な言動を取る者までいたのだから。
 とりあえず、ギルガメッシュ系列は敵に回してはいけない、ということだけは良く分かった。


「白野さん、まだ目を覚まさないのかなぁ……」


 治療が完了しても、白野さんはまだ目を覚まさない。実に3日間、眠り続けている。
 その間ギルガメッシュ王たちは片時も離れず白野さんが目覚めるのを待っている。
 いくらサーヴァントに休息の必要がないとはいえ、少し心配になる。
 けれどそれだけ、彼らは待ち望んでいるのだ。白野さんが目覚めることを。


「早く、目覚めてあげてほしいなぁ……」


 私だって、彼女が目覚めるのを待っている。
 聞きたいことも伝えたいことも山ほどあるし、見たところ年齢も近そうだから、出来ることなら仲良くしたい。
 だから、早く目を覚まして、白野さん。


「せ、せんぱーい!」


 背後から、マシュの大声が聞こえる。
 相当慌てているのか、髪が乱れている。
 一体どうしたのだろう。ここ最近は特に大きな問題も無かったし、子ギルのおかげで魔術教会からも今の所音沙汰ない。
 最近の話題で彼女がここまで慌てることといったら、白野さんのことしかない。


「どうしたのマシュ、もしかして白野さんに何かあった!?」


 こちらに向かって走るマシュに合わせて、こちらもマシュに駆け寄る。
 肩で息をする彼女は、こちらの予想に反して喜色を浮かべていた。


「はい、白野さんが目を覚ましたんです!」


 満面の笑みを浮かべる可愛い後輩の言葉に、私の顔にも笑みが浮かんだ。




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