月の観測者 2






1ページと2ページの間辺りにあったであろう出来事。
金女主要素を入れたくて、ついやってしまいました。
本物の地球に憧れていた白野ちゃん。
念願の地球に降り立って目を輝かせる白野ちゃんは可愛いと思うんだ!(集中線)



 ギルガメッシュとの再会を喜んで、話しあって、方針は決まった。
 ムーンセルから与えられた情報によると、カルデアのマスターはすでにこの地に降り立っている。まずはその人物と合流し、協力関係を築かなければならない。
 よし、と気合を入れ直して、一歩を踏み出す。じゃり、と地面を踏みしめる音がする。


(あ……)


 そこでふと、気がつく。
 そうだ、地面だ。0と1で組み上げられたものではなく、ありとあらゆる生を持って作り上げられた、本物の地球。
 その事実に今頃思い当って、頬が上気する。

 ほとんど衝動的にぴょん、と一度、跳んでみる。
 重力に従い、体が地面に吸い寄せられる。
 ざり、と音を立てて地面に着地すると、足の裏に固い感触を感じた。
 これが、地に足をつけるという感覚。
 ドキドキと鼓動が速まる。

 この胸の高鳴りこそが―――愉悦というものか。


「何を飛び跳ねている?」


 見られているとは思わず、突然かけられた声に、びくりと肩が跳ねる。
 恐る恐る振り返ると、ギルガメッシュが怪訝な表情でこちらを見つめていた。


「す、すまない。私は霊子虚構世界しか知らないから、本物の大地に興奮してしまって……」


 思い返してみれば、何とも子供じみた行動だった。興奮して飛び跳ねるなんて、今どき幼子でもするまい。
 急激に顔が熱くなるのが自分でも分かった。
 それに私は今、使命を負っている。自分の欲望のままに行動していい時ではないのだ。


「………………そうか」


 妙な間を開けて、ギルガメッシュが一つうなずく。
 ギルガメッシュは呆れてしまったのか、片手で顔を覆っている。

 ―――え、本当に何だその間は。まさか、そこまで呆れられるようなことだったのか!?
 ……いや、その反応も当然だ。今は人類の存亡が掛かっている事態なのだから。


「……いや、分かってはいる、分かってはいるんだ。こんなことをしている場合ではないことくらい。呆れられるのも当然だ」
「いや、呆れていたのではない。第一、我は貴様に欲などいくらでも張ればよいと言ったではないか」


 ギルガメッシュが顔を覆っていた手を離し、改めて腕を組む。
 片眉を跳ねあげたギルガメッシュを見つめて、私は目を瞬かせた。


「……こんなときでも?」
「こんな時だからこそ、だ」
「……なら、もう少し欲張っても良い?」
「構わぬ。好きに申せ」


 自分で言っておいてなんだけれど、やはり少し気後れしてしまって、自分の欲を、なかなか言葉に出来ない。
 けれどギルガメッシュはこちらを見つめたまま、私の言葉を待っている。
 言うしかない。意を決して、私はゆっくりと口を開いた。


「贅沢を言うなら、人の営みとか、豊かな自然とか。そう言った当たり前の、けれど尊い景色を見たかったな……」


 けれど最初に目にしたのは、炎に包まれた瓦礫の山。美しい光景など、どこにもありはしない。
 けれどそれは、詮無いことだ。
 私たち―――オブザーバーが召喚されるのは、聖杯戦争の成れの果て。つまりは正常な状態の世界には召喚されないということだ。
 そんなことは分かっている。でも、肩を落とさずにはいられなかった。
 ようやっと、ずっと憧れていた地球に降り立つことが出来たのだ。綺麗な景色を、心温まる光景を目にすることを、ずっと望んでいたのだ。
 けれど、それは叶わず、目に飛び込んできたのは地獄かと疑うような悲惨な景色。
 憧れの地球の在り様に、悲嘆に暮れるくらいは許してほしい。


「私には、過ぎた望みだったのかなぁ……」


 炎に呑まれた街を見つめながら、そっと呟く。
 思わず漏れた弱音は、自分のものとは思いたくないくらい、儚く弱々しいものだった。
 
 ―――ギギィッ!
 突然、凄まじい金属音が辺りに響く。それもごく近くで。
 ―――敵襲か!?
 ぎょっとして振り向くも、ギルガメッシュはいつものすました顔で火の海を見つめていた。危険が迫っているわけではないらしい。
 そのことにほっと胸を撫で下ろす。
 そんなこちらを一瞥し、ギルガメッシュが言った。


「ならば、未来を取り戻す他あるまい」
「え?」
「人理焼却を阻止すれば、地球もおのずと元に戻ろう。その暁には各地を巡り、余すことなく地球を見て回るぞ、マスター!」
「―――ああ!」


 ギルガメッシュからの檄に自然と力が湧いてくる。
 自分の顔に、笑みが浮かぶのが分かった。
 そんな私の顔を満足そうに眺め、ギルガメッシュは炎の街を往く。その隣に並んで、私も歩を進めた。


「さて、真意はどうあれ、どう処断してくれようか……」


 相棒の物騒な呟きは、煌々と燃え盛る炎の渦に呑まれて、私の耳に届くことは無かった。



はしゃぐ白野ちゃん可愛いなぁと悶えていた英雄王。
真意はどうあれ、白野ちゃんを落ち込ませた罪は重いよ!
ギル様の中で黒幕さんは処断されることが決定しました。
黒幕さん逃げて、超逃げて。
ちなみに金属音は、怒りのあまりに自分の鎧を握りつぶしそうになった音です。




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