蛇の計略
大事を取って、もう一日休んでいたフロイドは、すっかり元の元気を取り戻していた。
朝一からジャミルにじゃれつき、回復したのを報告に来たほど上機嫌だった。
一緒に登校していたカリムだけが事情を知らず、子細を聞いて少しばかり騒がしくなったが、その程度のことは些末なことである。
閑話休題。
「凄まじい回復力だな。もう少し大人しくても良かったのに」
「んふふ、看病してくれてありがとね、ウミヘビくん。お礼は何が良い?」
「別に要らないんだが……」
「それは何かやだ~」
「まぁ、分からんでもないが」
借りを作ったままというのは、何だか落ち着かない。それを盾に、いつ利用されるか分からないからだ。
「なら、俺が体調を崩したとき、お前が助けてくれ」
「いつになるの、それ」
「さぁな」
するりと腕を抜け出して、スタスタと先を歩く。
むっと唇を尖らせて、如何にも不服だと言わんばかりの表情を作る。
しかし、対価として提示されてしまえば、それを守らなければならない。契約とはそういう物だ。
不満そうな顔でジャミルの背中を見つめるフロイドに、カリムが苦笑した。
「難題を押しつけられたなぁ」
「難題?」
「ジャミルは具合悪いのとか、弱ってるのを隠すんだ。オレも気に掛けてはいるんだけど、なかなか気付けなくてさ」
―――――部活のときだけでも、無理してないか見といてやってくれよ。
困ったような笑みでそう言い残したカリムは、ジャミルの後を追いかけて走り出す。
(ラッコちゃんでも気付けないようなことに気付けって言うの? それなんて無理ゲー?)
きっと出来ないと思われているのだろう。ジャミルにも、カリムにも。自身もそう考えた。
けれど。
「…………おもしれぇじゃん」
総じてプライドの高いNRC生は、“出来ない”と思われると反発心を覚えるのである。
必ず気付いて、何が何でも借りを返してやろう。そう心に決めて、フロイドも二人を追って駆け出した。