蛇の計略
朝のHRで、来週から一週間、クルーウェルと保険医が出張でいないことが伝えられた。その間は病気や怪我をしても、専門の知識を持つ教師がいなくなる為、大人しくしているように、とのことだ。
NRCは温玉一つで乱闘に発展出来る程の治安の悪さを誇る。大人しくしていることなど、出来るわけがない。
しかしそれは、裏を返せば元気が有り余っていると解釈することも出来る。怪我をする生徒はいるかもしれないが、病気になるような生徒は居そうにない。
(カリムにきちんと食べるように言っておかないとな……)
その滅多に居ない一人にならないよう、より一層、カリムの体調管理に気をつけなければならないな、とジャミルがため息をついた。
カリムは軽音部のコンクールが近いと言うことで、昼休みもコンクールの練習に充てることになっていた。そのため来週からコンクールが終わるまでの昼食は、別々に摂ることになっている。きちんと食べているかどうかは、本人からの自己申告でしか分からないのだ。
カリムが体調を崩すと、面倒を見るのは必然的に従者であるジャミルになる。もともと保険医の出番はない。
しかし、カリムだけが体調を崩すのならまだしも、自身に移されると困るのだ。
不調を抱えたままでは正常な判断は出来ないし、丁度体調を崩したときに毒でも仕込まれていたら、致死率が高くなる。まともに護衛が出来ないときに刺客が入り込んだら大事である。
その上、カリムが何かと世話を焼きたがって、余計な仕事を増やすのだ。しっかりと栄養のあるものを食べさせて、常に万全の状態でいて貰わなければ。
(万全の状態、か……)
クルーウェル及び保険医の不在。
軽音部のコンクールでカリムのいない昼休み。
(…………使えそうだな)
唇の隙間から、ちろりと、真っ赤な舌が覗いていた。