約束に花束を添えて






「必ず迎えに行くから、待っててね」


 卒業式の日に言われた言葉。
 友人と言うには距離が近くて、恋人と名付けるには甘さはなくて。
 けれど沈黙が苦痛でなくて、隣に居ると穏やかで居られた。その言葉は、そんな相手から言われた言葉だった。

 その言葉が嬉しくなかったわけじゃない。
 けれど信じてはいなかった。彼は気まぐれだし、男女問わず引く手数多な男であったから。
 その上、お互いにやらなければならないことがあった。やりたいことがあった。
 そのうちに、もっとやりたいことも見つかるだろう。
 だからきっと、自分など早々に忘れられると思っていた。好奇心旺盛な彼は、新しいものが好きだから。

 だというのに、これはどうしたことだろう。


「約束通り、迎えに来たよ」


 あの日から数年。記憶よりも精悍さの増した顔で、男―――――フロイドが俺の前で跪いて、俺を見上げている。何故だか、俺に花束を差し出しながら。
 とても現実とは思えなくて、思わず頬を抓る。力を入れたら入れた分だけ痛い。
 それでも信じられなくて、主人であるカリムに目を向ける。カリムは俺の戸惑いを察したのか、ほんの少し苦笑した。
 けれどフロイドに向ける目は少しばかり厳しくて、それもまた俺の動揺を誘った。
 そんなカリムが、俺をさがらせてフロイドの前に立つ。
 息を吸って、一言。


「遅い!!!!!」


 待たされていたのは俺であるはずなのに、何故だかカリムがそう告げた。


「これでも最短で終わらせたんだけど!」
「待つ方と待たせる方じゃ、時間の感じ方が違うだろ」
「そうかもだけど……」
「あと一年遅かったら渡さないつもりだったぞ」
「はぁ!?」


 約束とちげぇじゃん!
 ぎゃんぎゃんと騒ぐフロイドに、ほんの少し安心する。
 顔付きは変わっても、中身が変わることは早々ないらしい。

 けれど、約束ってなんだ。
 あと一年とか、渡さないとか、一体何がどうなっているというのだ。


「ああ、もう、とにかく!」


 跪いていたフロイドが立ち上がる。
 たった一歩で距離を詰められて、持っていた花束ごと、フロイドに抱きしめられた。


「ジャミルはオレが貰うから」
「…………は?」
「待たせてごめんね」
「ふ、フロイド……?」


 何もかも話しについて行けなくて、色々言いたいことがあったのに、オレの言葉は口づけてきたフロイドの口に飲まれてしまった。




2/2ページ
スキ