致死量は口付け一回分






 副寮長会議を終え、ジャミルとジェイドはその片付けをしていた。
 会議の準備と片付けは持ち回りで、今回はジャミルとジェイドの二人である。
 真面目なものの多い副寮長はさほど散らかることもない。
 片付けはあっという間に終了する。


「手伝ってくれてありがとう。助かったよ」


 角を落とした、まろい声。砂糖に蜂蜜、その他、甘いものだけを煮詰めた様な声だった。
 ふわりと髪を撫でる手はどこまでも優しく、柔らかい。
 甘やかす為だけに用意されたそれらは、隙間など無かった筈なのに、するりと胸の内に入り込んで、勝手に何かを満たしていった。


「…………ぁ、」


 間違えた、とジェイドの頭を撫でたジャミルが自分のやらかしに目を丸くする。
 そんな様子にハッと我に返ったジェイドが、務めていつものように笑みを浮かべる。


「ふふ、誰かと間違えましたか?」
「……対価は」
「また後日提示しますね」


 苦虫を噛み潰したような顔で、ジャミルはジェイドを睨め付ける。
 チッと舌打ちして、ジャミルはさっさと踵を返した。

 ジャミルが立ち去って、ジェイドは会議室に一人残される形となる。
 何となく、そわそわと落ち着かない気持ちが湧いてくる。
 けれど不快ではない。

 ジェイドはふと、ジャミルに撫でられたところにそっと触れた。
 頭を撫でられるなど、いつぶりだろうか。



* * * * *



後日、同じく副寮長会議後。


「ジャミルさん、対価についてなのですが……」
「……対価はなんだ」
「もう一度撫でてください」
「………………は?」
「ふふ、簡単でしょう?」
「…………正気か?」
「おや、頑張ったから褒めて欲しかっただけですのに、正気を疑われるなんて悲しいです、しくしく」
「……しくしく言いながらの嘘泣きを信じる奴なんていないだろ」
「おや、バレてしまいましたか」
「隠す気なんてなかったじゃないか。…………はぁ、仕方ないな」
「おや、してくださるので? では、お願いします」
「……お疲れ様、君のおかげで早く片付いた。助かったよ」
「……ふふ。ええ、ジャミルさんに褒められたくて、頑張りましたよ」
「…………そうか」



ジャミルは妹とか、カリムの弟妹の頭を撫でる感覚でやっちゃった系。
他の人相手にもやらかしていたりする。




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