致死量は口付け一回分






 大柄な体に抱きしめられる。
 それはジャミルにとって珍しいことではなく、日常に溶け込み始めていた。


「はぁ、またか。今日は何の用だ?」


 いつも自分を見掛けると抱きついてくる気まぐれなウツボの人魚。
 用事があってもなくても気まぐれに抱きついてきては適当に話して満足したら去って行く。
 今日も特に用事など無いだろう。そうは思うが、ただで受け入れてやるのは何だか癪で、用事も無いのに抱きつくなと言わんばかりに、いつも尋ねてやるのだ。

 ぴくり、と背後から抱きしめる体が揺れる。
 それに違和感を感じる。


「用なんてないよ。オレがそういう気分なだけ~」


 へらりと笑いながら、ウツボの人魚はジャミルの髪に頬をすり寄せる。
 いつも通りの反応だ。特に機嫌が良いときの反応である。
 少しでも機嫌が悪かったら「用がなかったら抱きついちゃいけないの」とか何とか言いながら締め付けられたり、膨れ面で去って行くときもある。
 機嫌が良いのは良いことだ。ただでさえ扱いづらいのに、機嫌が悪いとそれがより顕著になる。
 しかし、この違和感は何だろう。


(もしかして…………)


 まさかと思いつつ、けれどこれだけ似ているのならば可能だという考えに至る。
 しかし分からないのは、何故彼が自分に抱きつくのかと言うこと。


「……ジェイド、何故フロイドのフリをしているんだ?」
「えっ」
「やっぱりジェイドか……。本当になんなんだ、君達は……」
「え、待ってください。何故分かったんです?」
「用があるか聞いたとき、動揺していたのに違和感を感じて」
「……それでカマを掛けたと」
「ああ」


 ジェイドが深い溜息をつく。
 普段ならこんな些細なことでボロなど出さない。
 疲れているのか何なのか。何にせよ、もっと身近な人間の元に行けば良いのに。


「それで、何故フロイドのフリをしている?」
「そ、れは……その、貴方を抱きしめるのに、フロイドの方が都合が良かったので」
「はぁ?」


 フロイドの方が都合が良いのは、いつもジャミルにくっついているからだろう。
 だがそもそも、何故抱きしめたがるのか。何だか聞かない方が身のためのような気がして聞いたことはないが、いつか知ることになるのだろうか。


「別にフロイドのフリをする必要な無いと思うが」
「えっ」
「正直、何故君達が俺に抱きついてくるのかは甚だ疑問だが、この際それはどうでも良い。どっちに抱きつかれているのか分からない方が不気味だ。せめてそれくらいは把握しておきたい。次からはジェイドのままで来い」
「……よろしいので?」
「どうせ言ったって聞かないんだろ? それに君がやめたって、フロイドは抱きついてくるんだろう。だったら一人も二人も変わらない」
「…………では、お言葉に甘えさせていただきますね」


 翌日から毎日ジェイドもひっついてくるようになった。
 何故?????




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