深海の月






 バスケ部に入部して、まず初めに教えられたのは二人の部員の取り扱いについてだった。一人はフロイド・リーチ。一人はルナ・アーシェングロット。二人は幼馴染みで、どちらもオクタヴィネル寮所属の生徒であるという。オクタヴィネルが「ヤクザヴィネル」「指定暴力団」と称される原因の一端を担う、学園内でも屈指の危険人物だと、バスケ部一同は口を揃えた。

 先輩達の言葉に、新入生たる新入部員達は揃って首を傾げた。どちらも、そのような恐ろしい人物には見えなかったからだ。前者のフロイドは見上げるような高身長で、確かに威圧感はある。けれど優しげな垂れ目が印象的で、機嫌良さそうにニコニコと笑っていた。
 後者のルナはフロイドの隣にいたこともあり、随分と華奢な印象を受けた。長い黒髪はつい目を奪われるような美しさで、表情の変化は少ないが、時折見せる微笑みは花が開いたような錯覚を見せるほどだった。多数いる新入部員の中には、彼に近づきたくて入部を決めた者も居るほどだ。

 フロイドは一見穏やかそうだが気まぐれな性分で、何をきっかけに気分が変わるか分からない。また、暴力を振るうのに戸惑いを持たない凶暴性を有している。頭のネジが足りていないと表現されることもあり、一言で言うなら「ヤバい奴」である。
 ちなみに彼は双子の兄弟がおり、ルナやその兄である寮長と幼馴染みであるとのこと。
 双子の片割れであるジェイド・リーチや幼馴染みであるアズール・アーシェングロットに対しては、大抵のことは「自己責任」で放置することが殆どだという。もちろん過ぎた行いをすれば問答無用で報復が待っている。
 しかし、アズールの弟・ルナに関しては別である。彼はジェイドやアズールとは別の位置に置かれており、彼に危害を加えるなどの行動を取れば、ノータイムノーモーションで対象を排除にしにかかるのだ。ルナに手を出そうとした相手が血の海に沈んだという話もあるという。

 ルナは華奢で大人しく見えるが、それは外面だけのものであるという。見た目に騙されてちょっかいをかけ、痛い目を見る生徒は数知れず。成績でマウントを取ろうにも、文句の付け所もないほどに優秀。教師からの覚えもめでたい。
 成績で敵わないと知って、暴力に訴えるも、それらすべてを返り討ちにするだけの実力がある。自分よりも遥かに体格の良い生徒を魔法も使わずに地に沈めたこともあるのだとか。
 時折見せる残虐性はこの学園でも群を抜いており、トラウマになる生徒は後を絶たない。「綺麗な薔薇には棘がある」どころではないという話だ。
 また、基本は放任主義で傍観の姿勢を貫くが、彼も兄弟や幼馴染みを大切にしている節がある。正当な報復ならば放置するが、少しでもやり過ぎれば、反抗の意志を刈り取り、二度と歯向かう事が出来ない体にされるという。

 フロイド・リーチとルナ・アーシェングロット。二人はそれぞれまったく別の方向に向いた「ヤバい奴」であり、絶対に敵に回すなとのことだった。


「……………………やっべぇ部活に入っちゃったかも……」


 顔にハートのスートのある一年生が、小さく呟く。彼がその「ヤバい奴」達のお気に入りの後輩の位置のついてしまうのは、そう遠くない未来の話である。



***



エースがルナのヤバさは他にもあることに気付く。
一人一人にまったく別の側面を見せる。自分だけが彼の特別だと思わせて、相手を狂わせる魔性。
自分も落とされてしまいそうで怖い。



***



原作軸との邂逅
原作軸のキャラのセリフ→「」
パラレルワールドのキャラのセリフ→『』


ジャミル「俺がアズールの弟………? 何だ、その絶対に御免被りたい家族構成は」
アズール「おや、つれない。あなたのような優秀な弟なら、僕は大歓迎ですよ?」
ジャミル「ぜっっったいにお断りだ」
フロイド『そっちのルナはアズールと仲が悪いんだ?』
ジャミル「俺はルナじゃない。ジャミル・バイパーだ」
カリム「そっちのジャミルはジャミルって名前じゃないんだな」
ルナ『ああ。俺はルナ・アーシェングロットだよ。母さんに付けて貰ったんだ』
カリム「へぇ! 綺麗な名前だな!」
ルナ『ありがとう』
ジェイド「では、ルナさんは人魚なのですか?」
フロイド『ルナは人間だよ~』
カリム「え? でも、アズールと兄弟なんだろ?」
ルナ『義兄弟だよ。俺は養子なんだ』
ジャミル「は? ますます意味が分からない………」
ジェイド「おやおや……」
アズール「どう言った経緯でそんなことに……?」
ルナ『ああ、うん。俺はどうやら元の家で虐待されていたみたいで、医者に家に帰さない方が良いって言われてアーシェングロット家に引き取られたんだ。だから、血は繋がってないよ』
カリム「   」
ジャミル「   」
アズール「   」
ジェイド「   」
フロイド『そ~。女の子みてぇにちまっこくて、チンアナゴみてぇに細っこくて、全身傷だらけで~。しかもアズールのお母さんが見つける前に誰かに襲われてたらしくて血だらけでぇ、記憶も無くなっちゃってたんだって。しかも海に飛び込もうとしてたらしくて………。そんな怖い目に遭ったの?』
ルナ『さぁ……。覚えてないから何とも………』
アズール「………熱砂の国って地獄にあるんでしたっけ?」
ジャミル「ほざけ。きちんと地上に存在するわ」
カリム「ま、おれ、じゃみ、は?????」
ジェイド「落ち着いてください、カリムさん」
ルナ『ところで、君は? 見たところ熱砂の国の人間だと思うんだが……』
カリム「(白目)」
ジャミル「か、カリム―――――!?」




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