双子の人魚を愛でるジャミルの話
―――――僕は何を見せられているんだろう。
ラウンジの最終点検を終えて、客人であるジャミルの元に足を運んだアズールは、何とも形容しがたい複雑な表情で幼馴染みとその恋人を見つめていた。
きゅうきゅう、くるるる。海のギャングが陸の毒蛇の膝に縋り付きながら、涙を流しながら喉を鳴らしている。どうやらジャミルの怒りを買い、許しを請いながら愛を囁いているのだ。
「うんうん、それで?」
「へぇ? そんな風に思ってたんだ?」
「ふぅん……? まぁ、悪くないな」
ポロポロと宝石のような涙が白い頬を伝う。その涙を優しく掬い上げながら、ジャミルは己の愛を希う恋人達をうっとりと見つめていた。
「ふふ、今日はこれくらいで許そうか。お前達もわざとやったわけではないようだし」
「…………ほんと?」
「……ゆるしてくださるのですか?」
「ああ。でも、次はもっと上手くやれ。俺はそんなに優しくないから、あまり同じ事を繰り返されると、見限ってしまうかもしれないからな」
***
涙でべしょべしょになったフロイド達に顔を洗ってくるように促して、ジャミルと二人きりになったアズールが肩を竦めた。
「よくやりますね。僕だったらとっくに見限ってますよ。あんなのが一生続くと思うと婚約破棄すら考えてしまうやもしれません」
「あいつらは性格に難はあるが、見目や能力だけを見れば極上の男達だろう? そんな奴らが綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして縋り付いてくるなんて、最高じゃないか」
心底楽しげなジャミルの言い分に、アズールの口元が盛大に引きつった。
確かに上位者を見下ろすことへの快感には同意できるものがあるけれど、仮にも婚約者をボロボロに泣かせて縋り付かせたいとは思わない。アズールは番を大事にしたいタイプなので。
ジャミルが双子を嫌っているわけではないことは、きちんと分かっている。むしろ憎からず想っていることも。彼らを傷つけたいわけではないことも、きちんと。
けれど、それでも、泣き喚いて離れまいと手を伸ばす姿を見て、彼らからの愛を確認するというのは、アズールには理解しがたいものだった。ちょっと倒錯的過ぎやしませんかね、というのがアズールの意見である。
「それに……」
「それに?」
「あいつらの泣き顔は悪くない。むしろ、かわいくて仕方ないよ。愛でてやりたくなる」
そう言ったジャミルは頬を上気させ、恍惚とした表情を浮かべていた。
潤んだ瞳で唇を舐め上げる仕草は壮絶な色香を孕んでいるが、厳しい自然界の中で生きてきたアズールには恐ろしくて仕方ない。巨大な捕食者が、大口を開けて背後に迫っているような感覚に襲われるのだ。
この毒蛇を、ウツボ共のペットだなんだと抜かす節穴共に言ってやりたい。あの凶悪な人魚達を振り回し、平伏させているのは、この毒蛇の方なのだ、と。