双子の人魚を愛でるジャミルの話
オクタヴィネルの双子とスカラビアの副寮長が交際しているというのは有名な話だ。何でも婚約までしているとかで、卒業後はリーチ姓を名乗るのだとか。
しかし、彼らが世の恋人達のように甘い感情を持って恋人同士になっていると考えているものは少ない。
恋人ならば少なからず甘い顔を見せるものだろう。
しかし、双子の人魚が熱砂の毒蛇にそのような顔を見せる素振りは無いのだ。むしろ手厳しく、容赦など無く、毒蛇が一方的に振り回されているようにしか見えない。故にジャミルは物騒な人魚達のご機嫌取りに捧げられた生け贄だとか、双子達の暇つぶしのオモチャだとか、そんな風に思われているのだ。
けれど、彼らをよく知る慈悲の人魚は言う。―――――あいつらが番に選んだ怪物にんげんが、そんな生易しい生き物であるはずが無いだろう、と。
***
とある日の夜。ジャミルはオクタヴィネルに来ていた。
場所はVIPルーム。不機嫌そうな顔を隠しもしないで、ドカリとソファに腰掛けていた。
そんなジャミルの前には、冷や汗をかきながら視線を逸らしている双子の人魚がいる。恋人達の逢瀬と言うには、双方共に相応しくない顔をしていた。
「今日、先生に言われたんだ。“お前の婚約者だろ、リーチ兄弟をなんとかしろ”って」
双子の人魚がびくりと肩を震わせる。心当たりしかないからだ。
この日、ジェイドとフロイドのクラスは合同で授業が行われたのだ。合同となったのは魔法薬学で、二人はペアを組んで魔法薬の精製を行った。双子の優秀さを持ってすれば実験が失敗することはないはずであったのだが、双子の精製は失敗に終わった。己の好奇心に突き動かされるままに、禁則事項を破ったのだ。
「オクタヴィネルのモットーは“自己責任”だろ? なんで俺が注意されなくちゃいけないんだ?」
心底不思議そうに、ジャミルが首をかしげる。無垢ないとけない表情や仕草はかわいらしいが、その目は身震いするような冷たさを宿していた。
「俺は自由が好きだ。束縛なんてくそ食らえ。だからお前達が好き勝手やるのも容認するし、楽しそうなお前達を見るのは嫌いじゃない」
ジャミルはその生い立ちから、自由を制限されることを嫌っていた。相手にも、それを強制するようなことはしない。それが婚約者達ならば、尚更である。だから命の危険や平和を脅かすようなこと、自分が被害を被らないようなことならば、大抵のことは許していた。
婚約者達の楽しみを奪うようなことはしたくないというのも、楽しげな彼らが嫌いでないことも、どちらも心からの想いなのだ。
振り回されるのは疲れるし、突拍子もない彼らについて行くのは大変ではあるけれど、なんやかんやジャミルも楽しめているので、最後には許している。
けれど。
「でも、それは全部“俺に迷惑をかけなければ“の話なんだよなぁ」
けれど、何事にも許容範囲というものが存在するのだ。今回の件は、ジャミルの許容範囲を超えていた。
自分が関わっていないのに自分の評価が下がるのは許しがたい。また、婚約者だからといって、学生同士の身分で相手方の責任を取らなければならない謂われはないのだ。
「ほら、ご機嫌取りくらいしてみろよ。俺との間に軋轢を生みたくないのなら」