生理が重いジャミル♀の話
ジャミルは生理痛が酷いタイプだった。腹痛や腰痛、吐き気は当たり前。経血量が多いのか、貧血に見舞われることも少なくは無い。
生理の前後にも体調不良が起こる。特に酷いのは頭痛だ。ズキズキと波打つような痛みに襲われ、身体を動かすと更に頭に響くのだ。
もちろんPMS対策として薬の服用はしているし、貧血にならないよう生理中はレバーなどを積極的に取るようにしている。
しかし、長年の毒味の影響か、薬全般に対する耐性が出来てしまっているジャミルにはあまり効果が無かった。従者としての役割上、身体を休めていられる時間が少ないのも原因だろう。
また、ストレスも生理痛を悪化させていると思われる。
主人であるカリムは男性である。彼に体調不良を訴えれば休ませてくれるだろうが、月に一度の頻度で体調不良を訴えていれば、いくら鈍感な彼とて不調の原因に気付くだろう。幼い頃からの付き合いとはいえ、デリケートな部分を知られるのは憚られた。
故にカリムはジャミルに生理があることを失念している。ジャミルが意図的にそうさせたとも言える。それ故に彼がジャミルの体調を慮ることはなく、月に何度も宴を開いてはジャミルのストレスを溜めていった。
この件に関して、カリムに非はない。事前に連絡を怠ることもあるので責任が全くないとは言わないが、生理というものが存在しない男性がそのことを失念するのは当然と言えば当然のことである。
しかし、生理で精神的にも参っているジャミルには関係ない。自分でそう仕組んだことですら憎々しく思えてしまうのだ。
(何で男には生理がないんだ。不公平だろう)
男にも男の苦しみはあろうが、女には女の苦しみがあるのだ。生理痛で苦しんでいるときに無邪気にはしゃぐ様子を目にすると、酷く理不尽で不公平に感じてしまう。そして自分の痛みをすべて押しつけて、苦しめてやりたくなるのだ。
(いっそ、そういう魔法を生み出してしまおうか)
そうすれば生理痛とはおさらばできて、生理の苦しみを他者に理解させられて、一石二鳥なのではないだろうか。
思考が不穏な方向へと流れていく。別に誰かを害したいわけではないのに、イライラが収まらず、酷く攻撃的になってしまうのだ。そんな自分が嫌で嫌でたまらなくて、自己嫌悪に陥る。普段ならここまで酷い思考に走ったりしないのに、自分ではどうしようもないほどに自分の心に振り回されてしまう。
(せめて、情緒不安定だけでも何とかならないものかな……)
深いため息をついて、ジャミルは膝を抱えた。膝に顔を埋めながら、そっと下腹部を撫でた。気休めにもならないが、しないより気分的にマシだった。
「ウミヘビちゃん、大丈夫?」
体調不良を必死に堪えるジャミルに、眉を下げたフロイドが声をかけた。
彼はジャミルの体調不良の理由を正しく理解しており、大きな手で優しく背中を撫でる。
もう少し腰の方を撫でて欲しいな、と思いながら、それを口に出すのは何となく恥ずかしくて、何も言わずにその手を受け入れる。それでも、大きな手は温かくて、冷えた身体に心地よかった。
「オンナノコって大変だね」
「…………うん」
フロイドが背後に回り、ぎゅっとジャミルの身体を抱きしめる。暖かくて大きな身体に包まれて、ジャミルはほっと息をついた。
お腹と膝の隙間に手を入れられる。フロイドがジャミルの手の上から、そっと手を重ねたのだ。気恥ずかしい気もしたが、それよりも安心感に似たものがあった。
「身体、冷えてんね。具合も悪いんでしょ? 毎月こんな大変なの?」
「…………うん」
「そっかぁ……」
重ねられた手がきゅ、と握られる。何だろう、と思って顔を上げると、フロイドがジャミルの細い肩に額を埋めた。
「…………お腹で稚魚ちゃん育てるのと、どっちが大変そう?」
回らない頭で、フロイドの言葉を反芻する。肩に押し付けられた顔を見ようとして首を回すも、俯いた顔は表情を隠してしまっている。けれど、重ねられた手のひらが酷く熱かった。
―――――妊娠すれば、確かに生理は止まるけれども。それはちょっと違うんじゃないか、と茹だった脳が疑問を投げかける。
けれど、理不尽に感じる痛みよりも、愛する人の子供を産むための痛みの方が、ずっとマシなものに思える。
そちらの方がちょっと魅力的だな、と思ってしまったジャミルは、自分のその思考が面白くなくて、フロイドの額に手刀を落とした。