監督生は花吐き病を患っている
「“花吐き病”って言うんです」
保健室のベッドに腰掛けながら、柔らかい笑みを浮かべて監督生が告げた。
その顔は常と変わらず穏やかで、監督生の異常事態を聞きつけて集まった面々は顔を顰めた。
「それはどんな病気だ?」
担任のクルーウェルが訊ねる。博識な教師である彼にも聞き覚えのない病気だったのだ。
学園の優秀な教師達や学徒達がこぞって調べたが、ツイステッドワンダーランドに花吐き病は存在しなかった。類似する病気すら見つからなかった。
異世界特有の病気だろうか、と胸に不安が燻る。
「自分の世界ではそこそこ名の知れた病気で、放置しなければ死ぬようなことはないものです。症状としては花を吐きながら衰弱していく感じですかね。専門家じゃないんでよく分かりません」
―――――否。監督生は嘘をついた。この病気は、”願い”恋が叶わなければ決して治ることはない。
「そう言えば、この世界に花吐き病は存在しないんですよね?」
「………ざっと調べてみた限りでは、そうだな」
「このメンツで調べて見つからなかったなら、存在しないんでしょうねぇ」
集まった顔ぶれの中にはネットに強いイデアやオルト。古い知識のあるリリアや幅広い知識のあるレオナやリドル。情報通なケイトがいる。
これだけの顔ぶれが花吐き病の手掛かりを見つけられないということは、そういうことなのだろう。
「でも、病気を調べて薬を作ったりとか」
「それまで自分の寿命が持つと思う?」
真っ直ぐな瞳でデュースが声を上げる。けれどその純真を、監督生は笑顔で斬り捨てた。
薬を一から作るのには莫大な時間が掛かる。それも未知の病に関する薬ともなれば、それこそ途方もない年月を要するだろう。
そもそも、花吐き病に薬なんてものは存在しないのだ。恋の成就以外に患者に生きる道はない。
「“特効薬”がないと言うことは、死ぬしかないと言うことですねぇ」
それを願うような満面の笑みを浮かべる監督生に、一介の学生でしかない子供達はひたすらに立ち尽くしていた。
監督生は恋をしていた。ずっとずっと長いこと、その想いを隠しながら。
あの人以外を好きになるつもりはない。もし心変わりしようものなら、自ら命を絶つことを考えるくらいには想い人を愛しているのだ。
想いが実らないならばそれまでのこと。潔く散るつもりだった。
けれど。
―――――恋が成就しないなら死ぬつもりでいたけれど、死に場所くらい選ばせてくれ。