そして噛み付いた花びらは、酷く苦い味がした






「…………本当に成功するとはな」
「口寂しくなくなったら、必要ないもんだからね」

注意
・腐向け
・フロジャミ
・卒業後設定
・喫煙?描写あり
・捏造過多
・キャラ崩壊



***



「俺は煙草が嫌いだ」


 煙草を吸った口で口付けて、顔を顰めた恋人から放たれた言葉はなかなかに鋭いものだった。


「苦いのが嫌いだ」


 生き物は本能的に苦味を嫌う。苦味のあるものを“毒性のある危険なもの”と認識するからだ。
 幼い頃から毒見を行ってきたジャミルは、毒に犯される苦しみを知っている。故に、身体がそのように適応したのだろう。大人になっても味蕾が発達したままで、苦味には非常に敏感だった。
 だから、ジャミルは苦いものが嫌いだった。


「だから、君が煙草を吸ったあとは、キスしない」


 吐き出された言葉は刃物のようで、言葉を受け取ったフロイドは驚きの目を瞠った。
 それからゆっくりと目を細め、苦味に顔を顰めるジャミルを見つめて首をかしげた。


「………………禁煙しろってことぉ?」
「別に強制するつもりはない。ただ、煙草の味が消えるまで、キスはしないだけだ」


 キスが嫌なのではなく、煙草の味がどうしても駄目なのだろう。吐き気すら覚えているのか、口を押さえて目を伏せている。顔色もあまり良いようには見えない。他人を慮る気持ちに欠けたフロイドでさえ、ちょっと可哀想になってしまう様相だった。
 少し考えて、フロイドはポケットの中に忍ばせていた煙草ケースを握りつぶした。


「やめる」
「え?」
「煙草やめる」
「…………そんなに簡単にやめられるものなのか?」


 煙草は依存性が高い。簡単にやめられるものではない。だから専門の外来があって、代替品まで販売されている。それだけ、煙草をやめたくてもやめられない人間が多いと言うことだ。
 それでも、フロイドの意志は固いようだった。


「煙草より、ウミヘビくんとキスしたいもん」


 フロイドの発言に、今度はジャミルが目を瞠った。


「ウミヘビくんのために頑張るからぁ、ご褒美ちょうだい?」
「ご褒美?」
「そ。一日我慢できたらウミヘビくんからちゅーしてよ。それなら禁煙できそう」


 そう言ってにんまり笑ったフロイドは、握りつぶした煙草を燃やし尽くした。




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