文通するフロジャミ
宣言通り、ジャミルは翌日の昼休みに手紙を寄越してきた。楽しみにしていたフロイドはニコニコ顔でそれを受け取った。
封筒はシンプルな白一色のもの。封は付属品らしきシールで留められていた。
けれど、その味気なさの割に律儀に宛名が書かれており、生真面目なジャミルの性格をよく表している。
“これぞジャミルからの手紙”と言わんばかりの封筒を受け取って、フロイドは上機嫌だった。
「確かに渡したからな」と言わんばかりにさっさと立ち去ったジャミルに手を振って、フロイドは手紙の封を切った。
手紙の内容は、当たり障りの無いものだった。手紙の形式に則って、簡単な挨拶から始まり、最近起きた出来事が綴られている。
内容としてはありきたりで、なんの面白味もない。けれど、便箋の上で踊る文字が、どのようにしてジャミルが文字を綴ったのかを如実に表している。
苦労して書いたのだろう。途中で何度も手を止めたのか、ペン先にインクがたまっていたことを窺わせる、ほんの少しだけ太い文字。それだけでも、この手紙に長い時間をかけられていることが分かった。
「ウミヘビくんってば手紙書くの下手すぎ~。もっと適当で良いじゃん」
まじめ~、とケラケラ笑いながら、手紙を読み進めていく。
“出来事”から、話題は“人”へ。カリムの失敗談、クラスでのアズールの様子。そして最後に、思い出したようにフロイドについての一文が綴られていた。
『そう言えば、窓からサボって中庭を歩いている君を見かけたよ。気分が乗らない時があるのは分かるが、授業はきちんと出た方がいいぞ』。
その一文の後は挨拶で締めくくられていて、最初から最後まで堅苦しさの抜けない手紙だった。
「げぇ、手紙でお説教とか萎える~」
口では文句を言いつつも、悪い気はしない。
それだけ自分を意識してくれているようで、自分を見つけてくれたのが嬉しくて、何だか胸がぽかぽかする。
「オレも返事しよーっと!」
ジャミルの手紙は堅苦しかったから、自分は面白いものにしよう。ジャミルが真面目くさった手紙を書くのが馬鹿らしくなるくらいに。
***
フロイドからの手紙の返事は、直接手渡されることはなく、部活で使用しているロッカーに投げ込まれていた。
ロッカーを覗き込んで発見した見慣れぬものに肝を冷やす思いだったが、フロイドのサインがあるのを見て、そう言えば手紙のやり取りをするという話だったことを思い出したのだ。それで不審物ではないことは分かったが、ロッカーに投げ込まれていた封筒は妙に膨らんでいる。ボコボコとした形に変わった封筒は、便箋が詰め込まれているようには見えない。そして香る、華やかな香り。
「何を入れてあるんだ………?」
恐る恐る封を切る。中身が溢れないようにそっと覗くと、中には花弁が大量に入っていた。
良い香りはこれか、と納得すると同時に、荒唐無稽さに呆れ返る。
「手紙の形式を為していないじゃないか」
呆れつつも、その自由さが好ましい。
何だか可笑しくなって、ジャミルはたまらずに声を上げて笑った。
ひとしきり笑って、一つ一つ花を取り出していく。入っていたのはチューリップ、アネモネ、スズラン、四つ葉のクローバーだった。
「しかし、季節の違う花をわざわざ用意したのか? クローバーも四つ葉だし、良く見つけたな………」
魔法の存在するツイステッドワンダーランドでは、盛りの季節が異なる草花を用意するのは難しいことではない。けれど手間であることは確かだ。まして学園生活を送る自分たちがこれらの花を入手するためには学外に買いに行くか、購買で注文するしかない。その上、封筒の中の草花はどれもたった今摘んできたように瑞々しい。魔法をかけてあるのだろう。
「………………枯らしにくいな」
宴のために花を用意する事もあるので、ジャミルはその手間をよく知っていた。集める苦労を察してしまい、どうしたものかと眉を下げる。
保存魔法を掛けるにしても、それにだって限度がある。
「………いっそ加工するか」
そこそこの量があるから、加工したものを次の手紙に添えておこう。
そう決めて、保存魔法を重ね掛けするためにジャミルはマジカルペンを構えた。