彼色に染まる
キスをするとき、フロイドは必ず魔力を送り込んでくる。自分の血肉を分けるように。一つに溶け合うように。
ともすれば気のせいで済ませてしまうような些細な量。けれど、それは大地に染み込む雨のように身体の奥深くに溜っていく。
その魔力は全身を巡って、溶け出して、海に流れていくように表面に現れる。それがグレーの瞳がゴールドに輝いた理由だった。
(そのうち、本当にゴールドになりそうだな)
自分の唇を食むフロイドの唇から、魔力が流れ込んでくる。
普通ならば気付くか気付かないかのギリギリのライン。けれどジャミルは、しっかりと染み込む魔力を感じ取っていた。
フロイドも、ジャミルが勘付いていることに気付いていた。けれどジャミルが黙って受け入れているから、それを指摘するような野暮な事はしない。その行為を咎められるまで―――――咎められてもやめないだろうけど―――――魔力を送り続けるのだ。
(ああ、でも、本当にわずかで、もどかしくなる)
あまりにもささやかで、物足りなくて仕方ない。
本当はもっと、もっと欲しいのだ。酩酊するくらいに。溺れて息も出来ないくらいに。
けれど、少しずつ染められる過程を楽しんでいるのも確かで、一度で終わってしまうのも酷く惜しいのだ。
どうしたものかな、と唇の感触を楽しみながら、ふわふわと浮つく脳で思考する。
心ここにあらずなジャミルに勘付いたのか、フロイドが唇を離し、むすりとむくれた顔でジャミルを咎めた。
「ちょっと~、ウミヘビくん? ちゃんと集中してよ!」
「ん? ああ、悪い。少し考え事をしていたんだ」
「こんなときに考える事ってなにぃ~?」
唇をとがらせて、不満げな様子を隠しもしないフロイドに苦笑する。今回無作法をしたのはジャミルの方だ。不満を甘んじて受けつつ、機嫌を取るように髪を撫でてやる。
「君とのことなんだが……。そうだな、こんなふわふわの状態で考えても、良い答えなんて出ないよな」
「………………」
「悪かったよ、フロイド。キスをするときは、キスに集中することにするから」
フロイドの白い頬に、血が通う。
嬉しいような恥ずかしいような、けれどどこか悔しげな、形容しがたい複雑な顔をしていた。
突然の変化にジャミルが目を瞬かせると、フロイドががばりと勢いを付けて、ジャミルの身体を包み込んだ。
「も~~~! オレとのちゅーのときに考え事してて面白くねぇって思ってたら“オレのこと考えてる”ってなに~!? しかもさぁ、“ふわふわ”ってなんなの、ずるい~~~!!」
ぎゃあぎゃあと喚きながら、ジャミルの肩口に額を擦り付ける。口では怒っているけれど、先程の不機嫌から一変して、彼はすでに気分を上向かせていた。
まるでジェットコースターだな、と呆れ半分感心半分、形に良い頭をあやすように撫でた。
「ウミヘビくん、もっかいしよ。次はちゃんと集中してね」
「ん、分かってるよ」
右目をゴールドに輝かせながら、ジャミルが柔らかく微笑んだ。
フロイドはジャミルの返答と右目の輝きに満足げな笑みを浮かべ、もう一度唇を重ねるべく、ゆっくりと瞼を閉じた。