想い人のためならば
それを見たのは偶然だった。
普段あまり触らないスマホに触れているのが珍しくて、つい視線を向けてしまったのだ。
そして、それを後悔した。
だって、自分の意中の相手が、スマホに映っている誰かに向けて、愛おしそうに微笑んでいたのだ。
「ウミヘビくん」
その顔を見ていられなくて、フロイドはつい、声をかけてしまった。
ウミヘビくんことジャミルが、ぱっとスマホを抱き込んで画面を隠す。慌ててフロイドに向けられた顔は誰が見ても赤らんでいて、酷く動揺しているのが見て取れた。
「な、なんだ………」
「一生懸命にスマホ見てたから、気になって」
「面白いものでも見つけた?」と、何でもない顔を装って、にこりと笑いかける。
ジャミルは視線を彷徨わせ、更にスマホを隠すように抱え込んだ。
上手い言い訳が思いつかなかったのか、最終的に視線を右下に落とし、もごもごと口ごもる。
(そんなあからさまな態度取ったら付け込まれちゃうよ?)
相手が自分であったことに感謝して欲しいな、と思いながら、フロイドが再び疑問を投げかけた。
「好きな人でも見てたの?」
「―――――っ!!!」
ぶわり。これ以上ないくらいに顔を赤らめたジャミルが、驚愕に目を見開く。
何故バレたのか、と言わんばかりの表情だが、先程の顔を見れば、よほど鈍感な相手でなければバレバレだ。
そのことを指摘すると、ジャミルは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「もう好きって言ったの?」
「………………言ってない」
相手は誰だろう、と考えながら尋ねる。ラッコちゃんかな、とカリムの笑顔を思い浮かべる。
けれど、ジャミルはカリムに対して複雑な感情を抱いてはいるけれど、恋心を抱えているようには思えない。
「見てるだけ?」
「………………勝算がない」
自信なさげに俯いていたジャミルに、思わず顔を顰める。
彼がその事に気付く前に何とかいつも通りの顔に戻し、内心で悪態をつく。ジャミルから好意を寄せられて、それを袖にする可能性があるなんて、なんて贅沢な奴だ、と。
「ふぅん………。ウミヘビくんに好きって言われて断るような奴なの? もったいね」
「………………そう、思うか」
しゃがみ込んで俯いていたジャミルが、立ち上がって喜色を滲ませた目でフロイドを見上げる。
珍しく頬を上気させたジャミルに見つめられ、心臓がドクリと大きな音を立てた。
「んー? だって、ウミヘビくん顔も髪も綺麗だし、出来ること多いし。確かに口うるさいときあるけど、ノリいいから一緒に遊ぶの楽しいしね」
「………………そうか」
長い前髪の毛先をいじりながら、素っ気なく頷く。
隠しているつもりなのかもしれないが、嬉しそうに口元が緩んでいる。
そういう詰めの甘いところがかわいいんだよなぁ、と小さく息を吐く。
「ちょっと自信が付いたよ。ありがとう、フロイド」
「んーん、頑張ってねぇ」
「ああ、ありがとう」
そろそろ戻るよ、と言って、ジャミルが鏡舎の方へと歩き出す。
ひらひらと手を振ると、僅かに振り返ったジャミルがほんのり目元を緩めながら、小さく手を振り返した。
褒められたのが嬉しかったのだろう。珍しいくらいに機嫌がいい。
言葉の通り、後ろ向きな気持ちが前を向いたのだろう。気落ちするようなことがなければ、彼が意中の相手に想いを告げるのも遠くない未来なのかもしれない。
「なに応援してんだよ………死にてぇ………」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜて、フロイドはその場に座り込んだ。