2週目バスケ部と監督生が疑似家族になる話
監督生―――――ユウは疲れていた。
ある日突然異世界に迷い込んで、名前の通りの「オンボロ寮」に住まわされることになって。
保護してくれたのは有り難い。
しかし火を噴く魔獣のグリムと二人で一人の生徒として、常識すらも通じない世界での学園生活は、想像以上にストレスがたまる。
通わせて貰っている以上、良い成績を収めなければならない。
けれど、学びの土台である常識が存在しないから、授業について行けないのである。
理解を示してくれて、分からないことを教えてくれる友人も出来た。
けれど友人にばかり頼るのは申し訳なくて、少しでも自分で理解しようと夜遅くまで勉強して。
しかし、そればかりにも集中していられないのである。
ここに住まわせて貰うに当たって金銭面の工面もして貰っている。その見返りとして雑用を頼まれているのだ。
それに加え、グリムがよく食べるのだ。生活費を圧迫するくらいに。
それこそ身柄を預かってくれている保護者―――――学園長からチクリと言われるくらいに。
故にユウは疲れていた。精神的にも、体力的にも。
―――――疲れた。休みたい。頑張ったねって褒めて貰いたい。
ユウは弱っていた。今にも泣いてしまいそうなほどに。
「監督生?」
声を掛けてきたのは親友と呼んでも差し支えない少年―――――エース・トラッポラだった。
彼は入学式の翌日からの付き合いで、こちらの常識や勉強を教えてくれる先生でもある。
彼はユウの顔を見て、心配そうに眉を下げていた。
「おはよう、エース。今日も良い天気だね」
「おはよう、監督生。……あんまよく眠れなかった?」
エースの指摘に、ユウは内心で酷く驚いていた。そんなに酷い顔をしているだろうか、と。
―――――心配を掛けたくない。ただでさえ、迷惑を掛けているのに。そんな考えが脳裏を過ぎる。
「大丈夫だよ。昨日はグリムの寝言が酷くて、夜中に起こされちゃっただけ」
嘘である。
確かにグリムは寝言を口にすることもあるが、誰かを起こすほど酷いものではない。
ユウも眠れなかったわけではない。ただ、勉強のために夜更かしをしていて眠りについたのが遅かったのと、その眠りが酷く浅いものだったと言うだけで。
ちなみに件のグリムは朝の散歩に出かけている。そのまま学校に向かうと言っていたから、教室で落ち合う予定だ。
閑話休題。
「ふぅん……。実はオレもよく眠れなかったんだよね~」
「そうなの?」
「そうなの」
にんまり。エースが口角を上げる。
「ってことで今日はサボってお昼寝しようぜ、監督生!」
スッと、自然な動作で手を取られる。あまりにも自然と行われた行為に、ユウは呆気に取られる。
―――――そう言えば初めて会ったときも、エスコートしながらグレートセブンについて教えてくれたっけ。
そう遠くない過去のことであるはずなのに、何だか酷く昔のことのように思えた。
「お昼寝っていう時間じゃないし、サボりは良くないよ」
「いつも頑張ってんだから、たまには良いだろ?」
自分へのご褒美ってやつだよ。
そう言ってエースは楽しげに笑う。
「ご褒美って事で、いっぱい褒めて貰おうぜ!」
そう言ってどこかに電話を掛けるエースに、ユウは首を傾げた。