ローディング画面のキャラで成り代わり
ヴィル・シェーンハイトは前世の記憶を持っている。前世はそこそこモテる女性で、男性に声をかけられる事態は少なくなかった。
しかし集まってくる男性ははっきり言ってしまえば性格に難のある者ばかり。同性からもモテることへの嫉妬よりも同情や哀れみの視線を向けられる程度にはダメンズ吸引器であった。
故に前世のヴィルはゲームや漫画などの二次元に癒やしを求めた。現実の男性があまりにもクソであったから。
そうしてプレイしたゲームの中に“ツイステッドワンダーランド”というものがあり、今世の自分がゲームの登場キャラクターであることを知っていた。
広く浅く、色んなゲームに手を出していたので「詳しい」とは言えないが、登場人物の顔と名前、性格くらいは分かっているつもりだ。だから、アズールとジャミルが仲睦まじく談笑するなんて光景は絶対に生まれないと知っている。
けれど、そんな光景が目の前で広がっている。
「ジャミルさん、古代呪文語について教えていただけませんか? この接続詞がいまいち理解できなくて……」
「いいよ。その代わり、魔法史の人魚語の記述を教えて欲しいんだ。解釈が違うような気がして……」
「ええ、もちろんです。ところで今日は髪を下ろしているのですね。よくお似合いですよ」
「あ、ありがとう……。アズールもおしゃれさん。今日のコロン、とっても良い香り」
「ふふ、ジャミルさんに気に入っていただけて嬉しいです」
邪気のない笑みを浮かべるアズールと、ふわふわの優しい笑みを向けるジャミル。
「あ、これ絶対自分と同類だ」と確信したヴィルは、一切の迷いなく二人に声をかけた。
彼らに成り代わりの自覚があるかどうかは分からないが、ヴィルは自分と同じ境遇の仲間が欲しかったのだ。もし彼らに自覚がなくとも、自分だけが原作とは違うのではないという安寧を得られるため、自覚の有無は些末なことだった。