ローディング画面のキャラで成り代わり
地球の日本で生きていた前世を記憶に持つアズール・アーシェングロットは、自分がゲームの登場キャラクターであることを自覚していた。そのため自分がいわゆる“成り代わり”というものになってしまった現状に頭を抱えていたこともある。立場を奪ってしまったと悩んだこともある。けれど、すぐに成り代わってしまったものは仕方ないと諦めた。だって自分が望んでアズール・アーシェングロットになったわけでもないのに、そんなどうしようもないことで悩むなんて馬鹿らしいと開き直ったのだ。そんな暇があったら“アズール・アーシェングロット”にふさわしい人物になるべく研鑽を積むべきだ。そうして得たものこそ、最高の餞になるだろうと考えたのだ。
もちろん中身が原作のキャラクターではないので“アズール・アーシェングロット”になることは出来ない。口調などは準ずるつもりではあるが、自分の出来る範囲で彼に寄せていく方向である。
そうやって努力に努力を重ねていると、気付けばいつの間にか双子の人魚がくっついていた。つまり原作通り、双子の人魚ことリーチ兄弟の「おもしれー女(♂)」枠に収まったというわけである。
晴れてサンコイチとなった双子に振り回されながら日々を過ごし、あっという間にNRC入学式の日がやってきた。
そして事件は起こる。
「えっっっ、かっわい……!」
アズールは式典中であることも忘れて、思わず声を上げた。
彼の視線の先にはアズールと同じくゲームの登場キャラクターであるジャミル・バイパーがいる。けれど彼は原作とは違い、綺麗に結い上げられたコーンロウではなく、ふんわりと緩やかに波打つ髪を大輪の白い花の髪飾りでまとめていた。
彼はアズールの声に驚いてアズールを振り返り、目を瞬かせる。雰囲気も自分の知るものとは違い、どこかふわふわと柔らかい。
前世のアズールは、いわゆるオタクと言われる人間だった。それも夢だろうが薔薇だろうが百合だろうが、何でも嗜める雑食タイプ。
解釈違いも基本的にない。原作と二次創作は完璧に分けて考えられるし、みんな違ってみんな良いと言えるおおらかさを持っていた。
また、自分がアズールに成り代わってしまった時点で原作は崩壊しているものと考えていたし、自分という事例があるのだから他にも似たような人物がいるだろうと当たりを付けていた。故に明らかに原作と違うジャミルを見ても、ジャミルの麗しさを改めて確認できたと喜びはするものの、そこに嫌悪感はない。
ただ、相手がどんな人物であるかも分からないうちに素を出してしまったのは軽率だったな、と慌てて口を塞ぐ。
「す、すいません……。あまりにもかわいらしかったもので……」
「え、と……お、俺のこと……?」
「は、はい、そうです! 本当にすいません、男性にかわいいだなんて……!」
「い、いや、大丈夫……。えっと、その、嬉しい………」
ありがとう、とほんのりと頬を染め、ささやかな笑みを向けられたアズールは、顔を覆って膝から崩れ落ちた。
膝を強かに打ち付けたが、そんな痛みは些細なものだった。
後ろで面白いものを見つけて口角を釣り上げる幼馴染みとか、慌てるジャミルとか、アズールをみて驚愕を浮かべるジャミルの連れが居るとか、そんなものを気にかける余裕はこれっぽっちもなかった。それほどまでに顔のいい男の照れたはにかみ顔の威力は強烈なのである。