体温の低いフロイドと世話焼きなジャミル
「君、思ったより体温が低かったんだな」
身を切るような寒さばかりではなく、優しい日差しと柔らかい風が肌に心地よく感じられるようになってきた頃のことである。窓から入る日差しがぽかぽかと体を温め、眠気を誘う部室の中、フロイドはジャミルに手を握られていた。
暖かい地域の出身であるジャミルは寒さに弱い。それがかわいそうで、冬の気候に震えていたところを温めたことがあるのだが、それ以来ジャミルは寒さに耐えられなくなったときにフロイドの元に暖を求めてやってくるようになったのだ。
春の陽気を感じられるようになってきた最近ではめっきり減ってしまい、なんとなく物足りなくなったフロイドが今日は自分からジャミルに構いに行ったのだ。そのときに丁度素肌にフロイドの手が触れて、その手の冷たさに驚いたジャミルがフロイドの体温が思っていた以上にずっと低かったことを知ったのだ。
「冬の間は、あんなにあたたかいと思っていたのにな」
むにむにとマッサージをするように手を揉みながら、ジャミルがしみじみと呟いた。自分を包み込めるくらいの特大カイロには大変お世話になったので、実は自分が思った以上に冷えていたから温かく感じていたということに驚いたのだ。
「そもそもオレ、人魚だからね。魔法薬で人間になっても、その名残までは完全に消えねぇの」
にぎにぎ、むにむに。冬の間よりもほんのりとあたたかい手のひらに包まれて、フロイドはなんだか落ち着かない気持ちになる。それをごまかすように、ジャミルの呟きに言葉を繋げる。
ジャミルは「歯もそのままだしな」と納得しながらなでなで、すりすり。手の甲を優しく撫でられて、はぁ、とあたたかい息を吹きかけられる。
ぐっと近づいた距離にぎょっと目を見張ると、今度は指を絡めて、ぎゅっと握りしめられた。
恋人同士がするような触れあいに、ふわふわ、そわそわ、嬉しいやら恥ずかしいやら。
「ん、あたたかくなったな」
反対の手も同じようにあたためて、どちらもしっかりと温まったことを確認して、ジャミルが満足そうにうなずき、口角を上げる。
はっきり言うなら、深海の人魚に熱源なんて必要ないのだ。極寒の中で暮らしていて、むしろそれが快適なのだから。だから手を温める必要なんてない。
けれど、フロイドはそれを最後まで告げることは出来なかった。曖昧に笑って、適当にお礼を言って。けれど。
「こんなこと、他の奴にはしないでね?」
これだけははっきりと、ジャミルの目を見て伝えておいた。
出来ればラッコちゃんにも、とは、さすがに恥ずかしくて言えなかったけれど。