殺人鬼な監督生






 監督生は殺人鬼である。



「ねぇ、学園長。この世界に“殺人鬼保護団体”は存在しますか?」
「………………はい?」
「自分、国に保護された“殺人鬼”なんです」

「………それは、どう言ったものなのでしょう?」
「あ、もしかして、こっちに“殺人鬼”って存在しないんですか?」
「いえ、人殺しがないわけではありません。しかし、あなたのように“殺人鬼”を自称する人はいませんね」
「なるほど。とても異世界という感じがしますね」
「まったくです。それで、詳しく教えていただいても?」

「はい。“殺人鬼”とは、“殺人に得も言われぬ快感を覚える常軌を逸した存在”です」

「殺人鬼には危険度を示す尺度があり、0を一般人とした0~7までの8段階で設定されていて、0~4までの殺人犯は「一般的な殺人鬼」であり「殺人鬼予備軍」とされています」
「5~7は殺人犯の中でも常軌を逸した存在とされ“殺人鬼”と呼ばれていますね」

「………そんな存在が、保護されているのですか」
「はい、学校で習ったり、メディアに取り上げられたりもしていて、一般人にも周知の事実です」

「そして、“殺人鬼保護団体”についてなのですが、これは“殺人鬼”を保護し、その見返りに国の利益のために働かせる国家機関のことです」
「まぁ要は、“殺人鬼”に仕事を斡旋してくれる団体のことですね」

「その、仕事とは?」
「国の不利益になる人間の暗殺、犯罪者への極刑や拷問ですね。こういった仕事をこなすことで、一般人への殺戮衝動を抑えることを目的としています」
「………………なるほど。そしてあなたは、その“殺人鬼”だとおっしゃるんですね?」
「はい」
「………なるほど」

「ところで、あなたが“殺人鬼”になった経緯やあなたの危険度を教えていただくことは可能ですか?」
「勿論です」
「おや、随分簡単に教えてくれるのですねぇ」
「ええ。恥ずかしいことでもないし、隠すようなことでもないので」
「………………価値観の違い、と言うやつですね」
「自分は控えめな方ですよ。自分が殺した“作品”を大衆に見て貰いたいというタイプの人もいますし、人前でエンタテインメントとして殺戮をしたがる人もいますから」
「―――――」
「さて、では自分の話をさせていただきますね」

「自分が最初に生き物を殺したのは7歳の時です。せっかくお母さんと一緒に家の前を掃除したのに、鴉がゴミを漁って汚したんです。それに腹が立って、気付いたときには鴉を引き裂いていました」
「そのとき、自分はこう思いました。“ああ、なんてもったいない”と」
「自分は鴉を殺した瞬間を記憶していないことに、酷く落胆したんです」


「“何で覚えていないんだ”“せっかく殺してもいい大義名分を得たのに”“確かにこの手で殺したはずなのに”」


「そこから自分は始まりました。生き物を手にかけるようになりました。小さな生き物から大きな生き物まで、関係なく殺すようになりました」
「猫に引っかかれたから脚を踏み潰しました。犬に噛まれたから口を裂きました。魚が顔を出したから石を投げて貫きました」
「楽しかった。満たされた。幸せだった。けれど、次第に物足りなくなりました」


「“人を殺したい”“同じ形のものを壊したい”“脅かされることはないと信じている顔を、絶望の底に落としたい”」


「そんなとき、自分は暴漢に襲われました。ようやく、人を殺してもいい大義名分を得ました」

「自分は殺しました。たっぷりと肉の乗った腹を指で引き裂きました。心臓の色を知りました。腸がどれほど長いのかを知りました」
「薄皮を剥ぐと、思ったよりもすぐに肉が見えることを知りました。脳を掻き混ぜると、死んでいるのに指が跳ねることを知りました」
「楽しかった。満たされた。絶頂でした。自分が求めていたものはこれだと確信しました」

「自分が殺人鬼として覚醒したのはこの時です」


「ここまでの話を聞いて、あなたは自分をどう思いました? 恐ろしいと思いました? 理解できないと思いました?」
「自分、これでもLv5なんです」
「Lv7だと思いました? お優しい、いいえ。とろけるほどに甘いですね」


「彼らは自分とは格が違いますよ」


「あ、ちなみに、“カッとなって殺した“程度ならLv0ですよ。その後に後悔や反省をするのなら、それはごく真っ当な人間です」
「ここで反省も後悔もなく、“楽しかった”“またやりたい”という思考が生まれて初めて、その生き物を“殺人鬼”と呼びます」
「人が持つ最も原始的な娯楽は加害であり、殺戮です。人は誰しもが他者を害することに快感を覚えます。理由無きいじめや殺人がそれに当たるでしょう」

「“誰でもよかった”“ただ人を殺してみたかった”」
「そんな理由で人は人を傷付けるし、人は人を殺します」

「自分は、楽しんで人を殺します」
「自分は“殺人鬼”です」



***



「監督生」


「君の力を貸して欲しいんだ」
「魔力も何も無い自分に?」
「ああ」
「他の人では駄目なんですか?」
「そうだ。君にしか頼めない」
「………具体的には?」
「カリムの護衛だ」
「………自分、一般人なので、そう言った経験はありませんよ?」


「殺して良い人間を用意する」
「―――――」


「大義名分は、カリムの命を守るため」
「そのために、カリムを狙う暗殺者を処分してくれ」
「死体の処理は俺がしよう」


「あはっ♡」

「お任せ下さい。それなら自分の得意分野です♡」

「では今からジャミル先輩を“殺して良い人間の提供者(きょうはんしゃ)”と認定しますね♡」

「自分はジャミル先輩と利害が一致している限り、あなたとカリム先輩を害することはありません。あなたとカリム先輩に仇為す者を殺して―――――





ころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころして





ころし つくし ます!」


「―――――」
「ああ、頼もしいな」



 監督生は殺人鬼である。




2/3ページ
スキ