ローディング画面に出てきたキャラで成り代わり
ぎゅう、と力強く抱きしめられる感触に、らしくもなく硬直する。
自分よりも頭一つ分大きな相手に見覚えはない。
けれど、相手は自分を知っているようだった。自分と出会えたことに高揚しているのか、鼓動は高鳴っており、頬も上気している。
「―――だよね?」
「え?」
耳元で囁かれた言葉は、遠い記憶を呼び起こすには十分だった。
だってそれは、前世の自分の名前だったのだから。
そうなると、自分との再会をこれほど喜んでくれる相手は限られてくる。
「―――?」
「そう、そうだよ。会いたかった、―――」
そう言って、より一層強く抱きすくめられる。
「―――」というのは、かつての俺の親友の名前。
一番の友達。大切な人。
彼だと分かって、ドクリと心臓が大きく跳ねた。
俺も高揚してきたのか、頬がとんでもなく熱い。
けれど、そんなことはどうでもいい。
また逢えたことが嬉しくて、彼を抱きしめ返そうとして―――――
「ジェイド?」
彼の背後から聞こえた声に、入学式の途中だったことを思い出す。
そして、彼にきつく抱きしめられているという事実とその状況を見られているという現状に、頭が沸騰しそうになりそうなほどの羞恥に襲われた。
「いきなり走り出してどうしたの? てか、そいつ誰?」
「すいません、フロイド。美しい人がいたもので、つい」
今世のあいつとそっくりな顔をした少年と、眼鏡をかけた美人が訝しげにこちらを見ている。
今世は双子なのかな、なんて現実逃避。
というか美しい人って俺のことか? 確かに今世の俺は美人だけれども! いつの間にそんなタラシになったんだ、お前!
「どうやら僕、彼に一目惚れしてしまったようでして」
困りましたね、なんて。ちっとも困っていない笑顔を浮かべて、そんなことを宣う。
俺は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
随分間抜けな表情をしているだろうと予想できるが、これは仕方がないだろう。
―――誤魔化すにしたって、もっと他にあっただろ!
そんな甘く蕩けた顔で見つめるな、ばか! その嘘が本当だって勘違いされるだろ!
「僕はジェイド・リーチ。貴方の名前を伺っても?」
「じ、ジャミル・バイパー……」
「ジャミルさんですね」
僕のことはジェイドと呼んで下さい、と期待を込めた目で見つめられたから。蚊の鳴くような声で「ジェイド」と名前を呼んだら、周囲から歓声が上がった。
待って。もの凄く祝福されてる。
取り返しが利かないことになっている気がする。
「またよろしくね、―――。……いえ、ジャミルさん」
「……うん、―――。……よろしく、ジェイド」
けれどあの頃と変わらない優しい笑顔で名前を呼ばれたら、どうでもよくなってしまって、自分で自分の外堀を埋めてしまっているのに気がついたのは、随分と後のことだった。
ちなみにこの後突撃してきたジェイドの双子に「ジェイドの番ちゃん」と呼ばれるようになり、それを必死に訂正する羽目になるのだが、それはまた別のお話。
「ジェイドの番ちゃん」というあだ名で呼ばれるようになるジャミル成り代わり。
どれだけ訂正されても周りがジェイドの想い人であることを周知するまで「つがいちゃん」と呼ぶのをやめない。
「この子には「番」がいんだよ、手ぇ出すんじゃねぇぞこらぁ」っていう脅し。
ちなみにアズールもジャミルの話題が出る度に「ああ、ジェイドの番の方のことですね」とか言ったりする。
面白半分、だけど半分は本気で幸せになって欲しいと想っている二人。