実は大食漢なジャミル






 バスケ部の練習試合の帰りのことである。NRCバスケ部は相手校に赴き、試合を行ったのだが、やんちゃな生徒が移動用の鏡に悪戯をしたことで使用不可になってしまったのだ。
 そのため公共交通機関で帰ることになったのだが、ツイステッドワンダーランドの移動方法は基本的に鏡を使用する。そのためバスや電車は運行量が少なく、それなりの待ち時間があった。

 元気が取り柄のNRC生たちは盛大に腹を空かせていた。何もせずとも腹が空いてしまう育ち盛り。身体を動かした後ともなると、それはもうたまらないくらいの空腹を抱えることとなる。


「時間あるし、何か食わねぇ?」


 そう言い出すのは必然と言えた。
 食べられれば何でもいいと言わんばかりに、バスケ部一同は近くにあった極東風の店に入ることにした。


「何食う?」
「俺、オムライス!」
「お、ラーメンあんじゃん! 俺、ラーメンにしよ」


 各々がメニュー表を開き、和気藹々とした空気が流れる。
 極東風の店と言うこともあり、珍しいメニューも多い。バスケ部一同は変わった料理の写真に盛り上がりを見せていた。
 そのうちの一人が、最後のページを見て思い切り吹き出した。


「ちょ、大食いチャレンジとかあるぞ!」
「マジか、誰か挑戦してみろよ!」
「いや、無理だろ! 総重量5キロのカレーとか食えねぇって!」


 一人の声を皮切りに、生徒達が更に盛り上がる。
 大食いチャレンジにはオムライス、ラーメン、カレーの三種類がある。
 制限時間は1時間。総重量5キロ。時間内に食べ終わることが出来れば、チャレンジで食べた商品は無料。更にデザート一品無料券が貰えるという。
 盛り上がる生徒達を尻目に、同じページを見ていた生徒がメニュー表から顔を上げた。


「すいません。この大食いチャレンジに挑戦したいんですけど」


 そう言って店主らしき男に声を掛けたのはジャミルだった。


「はいよ。学生さん? 細いけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「どのメニューで挑戦する?」
「カレーでお願いします」
「普通のと、カツカレーバージョンがあるよ」
「では、カツカレーの方で」
「はいよ」


 注文してからしばらく、持ち上げるのも大変そうな大きさの皿に盛られたカレーがジャミルの前に置かれた。
 細身のジャミルの前の置かれると、雑に作られたコラ画像のように見えた。


「え、ジャミル先輩、大丈夫なの?」
「そんな細っこいのに、5キロもお腹に収まるの?」
「ああ、これくらいなら問題ないよ」


 エースとフロイドの心配をよそに、ジャミルは涼しい顔をしている。

 制限時間は1時間。
 チャレンジが失敗した場合には、カレー代5000マドルを支払うことになる。

 始め、という宣言と同時に、セットされたタイマーのスイッチが押された。

 スタートと同時にジャミルがカレーを口に運んだ。
 どろりとしたカレーがライスやカツとよく絡む。熱砂の国のさらりとしたカレーとはまったく別のものだが、これはこれで美味であった。
 ほんのりと甘い、白くふっくらとしたライスとピリッと辛いカレールーの相性は抜群で、カレーを口に運ぶ手が止まらない。
 みるみる減っていくカツカレーは圧巻で、バスケ部の一同はその気持ちいいまでの食べっぷりに感嘆の息を漏らした。


「すげぇ………」
「あの細身のどこに入っていくんだ?」
「清々しい食べっぷりだな………」
「あんだけパクパク食べてるのみると、俺でも食べ切れそうって思えてくるのがすげぇよな」


 無理をして食べているような様子はない。むしろ美味しそうに食べているものだから、自分も一緒に食が進む。


「ん?」


 順調に食べ進めていたジャミルの手が止まる。ライスを掬おうとしたスプーンが、ライスとは違う感触を伝えてきたのだ。
 何か入っているのだろうか。ライスを掬うと、その感触の正体が判明した。ライスの下に、大きなカツが隠れていたのだ。
 それを目撃したエースが大袈裟に仰け反る。


「はぁっ!? ライスの下に更にカツ!? 何この要らないサプライズ!?」
「え、むしろ最高なんだが」
「嘘でしょ!!?」


 嬉しそうにカツを食べるジャミルに、エース達は開いた口が塞がらない。


「ジェイドより食べるじゃん……」
「え、ジェイド先輩ってこんな食べるんですか?」
「めっちゃ食べるよ。超燃費悪いの」


 みるみると減っていくカレーの山。一向に落ちないペース。無理をしている気配は全くなく、実に美味しそうに食べ進めている。これには店主も嬉しそうな顔をしていた。
 そしてジャミルは制限時間を10分残し、5キロものカレーを食べきった。


「良い食べっぷりだったね。見ていて気持ちよかったよ」
「それだけ美味しかったんです。ごちそうさまでした」
「そりゃよかった。はい、チャレンジ成功の報酬、デザート一品無料券だよ」
「ありがとうございます」


 差し出された無料券を受け取り、ジャミルがにこりと笑う。


「この券って今使っても大丈夫ですか?」
「もちろんいいよ。何か気になるものはあったかい?」
「はい、杏仁豆腐ください」
「はいよ」
「「まだ食べるの!!?」」


 フロイドとエースがぎょっと目を見開く。


「ジャミル先輩って普段こんな食べないですよね?」
「従者が主人より食べるなんて、はしたないだろう」
「「「………………」」」


 しれっとした顔で熱砂の闇深案件を投下され、バスケ部一同が頭を抱える。そんな一同の様子を尻目に、ジャミルは運ばれてきた杏仁豆腐に釘付けだ。
 珍しく満面の笑みを浮かべながらデザートを食べるジャミルを見て、一同は次の部活でめちゃくちゃご飯を食べさせることに決めた。




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